13. 娘の友達! 前編

バッチーーン!!



「いってーーーー!!」


 ラブホ前で、突然やってきた女に思いっきりぶん殴られた。

 あまりにも勢いが良すぎて尻餅をついてしまった。


「こ、心春こはるちゃん! 何やってるの!?」

「誰よこの男! どこの誰!? っていうかあんたたちこんなところで何してんのよ!」


 琴乃ことのよりも小柄な女の子が、すごい勢いで琴乃ことのにまくし立てている。


「同じクラスの湯井ゆい唯人ゆいと君だよ。心春こはるちゃんも知ってるでしょ?」

湯井ゆい……? ふーん、あの湯井ゆい君ね」


 どの湯井ゆいなんだよ!

 頬っぺたの紅葉マークをさすりながら、ゆっくりと立ち上がる。


「あ、あんたらまさかここで……」

「何もしてないからなぁーー!」


 腕を組んだ男女がここにいたら確かにそう思われるか……。


 だが、その先は言わせない。


 琴乃ことのの前で絶対にその先の言葉は言わせない!


「っていうかお前誰だよ! 人のことぶん殴っといて!」

「はぁ!? 同じクラスの木幡こはた心春こはるですけどーー!」


 ――えっ?


 こんな子いたっけ? 

 

 うっすらと見覚えがあるような……?


 あっ! もしかしてこの前の調理実習で琴乃ことのに味噌汁教えていたやつか!?


「ちょっと新聞に取り沙汰されたからって調子に乗って」

「別に乗ってないって……」


 頭に血がのぼりそうになるのをぐっと抑える。


 この子はまだ高校一年。

 琴乃ことのと一緒でまだ子供なのだ。


「ま、まさか付き合ってるのあんたら!?」

「ハハッ、まさかそんな――」


「そんなとこだよぉ」


 琴乃ことのが、嬉しそうな顔をして会話に割り込んできた。

 場がややこしくなるか今は会話に入ってこないでほしかったぁー!


「い、いいいつからそうなの!?」

「ついこの間だよぉ。唯人ゆいと君が私を助けてくれたときから一緒にお出かけするようになったの」

「な、なんで!? 琴乃ことのはこの男の子のどこが良いの!?」

唯人ゆいと君って凄く優しいんだよ。それにね、唯人ゆいと君って死んだ私のお父さんにそっくりなんだ」

「はぁあああ!? この子が似てるわけないでしょ!」


 お前が俺の何を知ってんねん!

 今日出会ったばかりの女子に、何故か真っ向から否定される!


 俺、こういう騒がしい子はちょっと苦手だなぁ……。


琴乃ことの木幡こはたさんと仲が良いの?」

「うん! 高校から一緒なんだけど、凄く仲良しなんだよ!」

「へ、へぇ」


 全然知らなかった。

 琴乃ことのに、そういう友達がいたことは素直に嬉しいけど……。


木幡こはたさん、これからも琴乃ことのと仲良く――」

「なんであなたにそんなこと言われなきゃいけないの?」

「い、いや……」

琴乃ことのの彼氏面するの本当にやめてほしいんですけど」


 俺、こいつ嫌いだわーーーー!!


 めちゃくちゃつっかかってくるじゃん!


 口も悪いし琴乃ことのの友達に相応しくない!

 大体、いきなりぶん殴ってくるようなやつが琴乃ことのの友達だなんて!


「えへへへ。そんなぁ、彼氏面だなんて」


 気にするところはそこじゃなーーい!

 どうせなら少しでも俺のフォローをしてほしかった!


 琴乃ことのの顔がいつものとろんとろん顔になってしまっている。


「じゃ、じゃあ後は若いお二人で……」


 こうなったら退散だ。

 大体、元おっさんの俺が女子高生のノリに付き合うこと自体が無理なのだ。


「えぇえええ! 唯人ゆいと君待ってよ! もうちょっと一緒にいようよ!」


 琴乃ことのが俺の右腕にしがみついてくる。


「そうよ! 私もまだ湯井ゆい唯人ゆいとに聞きたいことがあるわ!」


 木幡こはた心春こはるが俺の左手に――。


「いってぇえええ!!」

「ど、どうしたの!?」


 木幡こはたが俺の治りかけの左手を思いっきり両手で握りつぶしてきた。


 こいつ目ん玉ついてんのか!

 包帯めちゃくちゃ巻かれてるだろ!



「入口で騒ぐのはやめていただけませんか?」



 そんな騒ぎをしていたら、ホテルの店員さんが出てきてしまった。

 し、しまった……ここはキラキラホテルの前だった……。


「痴情のもつれは他でやっていただけると――」

「違います違います! すぐに離れますので!」


 俺たちは急いでその場から離れた。




※※※




唯人ゆいと君、大丈夫?」


 俺たちは、近場のファミレスに逃げ込んだ。


 隣に座った琴乃ことのが優しく俺の左手をさすっている。

 相変わらず距離感がバグっているが、今はそんなことはどうでもいい!


「まったく、湯井ゆい唯人ゆいとのせいで大恥かいたわ」


 正面に座った木幡こはた心春こはるが、相変わらず俺に悪態をついている。

 

 当然のように琴乃ことのが俺の隣に座ったの見て、木幡こはたが俺のことをずっと睨みつけている。


 こ、こんにゃろぉおお。

 睨みつけたいのはこっちだ!


 人のことをぶん殴るわ、治りかけの左手を握り潰すわで、とんでもない女だ!


 うちの琴乃ことのを少しは見習ってほしい。


「ま、まぁそんな怒らないで」


 額に青筋を立てながらも、木幡こはたに努めて冷静に返事をする。


 娘の友達に正面切って腹を立てるなんて、そんな馬鹿らしいことはできない。

 内心ははらわた煮えくり返っているがな!


「ふんっ。大切な琴乃ことのをキズモノにされたと思ったらそりゃ怒るわよ」

「ただの友達でそんな大げさな」

「ただなわけないでしょう! 琴乃ことのは私の一番の宝物なの!」


 めちゃくちゃおおげさに木幡こはた心春こはるがそんなことを言ってくる。


「ねぇねぇ唯人ゆいと君、キズモノってどういう意味? 私、別に怪我してないよ?」



「「琴乃ことのは知らなくていい!!」」



 娘のお友達と思いっきり声がダブってしまった。

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