14. 娘の友達! 後編

「はい、唯人ゆいと君。あーん」


 注文の品が届いたので、三人でご飯を食べることにした。


「あなた骨折してるの左手でしょ? 自分で食べなさいよ」


 木幡こはたが、スパゲッティをくるくると巻きながら、キツイ口調で俺にそう言ってくる。


琴乃ことの木幡こはたさんの言う通りだから」

「えぇえええ!」


 口は悪いが木幡こはたの言う通りだ。


 俺も公共の場でそういうことをするのは恥ずかしいので、ある意味こいつに助けてもらう形になった。


「ちょっと心春こはるちゃん! 邪魔するなら帰ってよ!」

「私は琴乃ことのの心配をしているだけなのに……」


 琴乃ことのに邪険にされて、木幡こはたがしゅんと落ち込む。


「い、いいから! ご飯は皆で楽しく食べようよ!」

「私は、あなたがいなきゃ楽しくご飯食べられるんだけどなぁ」


 ぐぐっ……! やっぱりこいつ可愛くないなぁ!


 見た目だけなら、外ハメ気味のふわふわのボブヘアーがとても似合っているし、顔の各パーツもとても整っているほうだと思う。


 色素の薄い髪に色白の肌、赤みがかった瞳をしていて、見た目だけならに可愛いと呼べる部類だろう。


 だが絶望的に性格が可愛くないっ!!


 ふんっ、全部うちの琴乃ことのの圧勝だな。


 琴乃ことのに可愛いじゃなくて、可愛いだしな!


 それにこいつは高一にしては体格が幼すぎる。


「そ、そんなに琴乃ことののことが好きなんだ」

「そりゃ大好きよ。あなたなんかに負けないんだから」

「むっ」


 間を繋ぐための会話だったのだが、木幡こはたが俺に張り合ってきた。


 さすがにその言葉は聞き逃せない。


 俺の琴乃ことのへの気持ちは絶対に誰にも負けていないはずだ!


「その言葉はいただけないな」


 俺は、ガタっと席を立って木幡こはたを睨みつけた。


「な、なによ」


 木幡こはたも俺に釣られて席を立つ。


「いいか! 俺の琴乃ことのへの気持ちは本物だ! それだけは絶対に負けないからな!」

「わ、私だって琴乃ことのへの気持ちは絶対に負けないんだから!」

「なんだと!」


 俺と木幡こはたとの間でバチバチと火花が散る!


 やばいじゃんこいつ! 

 親の俺を差し置いて、友達にそこまで言うかぁ!?


 もしかしてこの子ってそっち系では――。


 琴乃ことのが変な方向に目覚めたらどうしよう。


 俺の立場としては、この子と琴乃ことのを付き合わせるのはすごく心配だ!


「えへへへ。やめてよ二人ともぉ」


 ニコニコ顔の琴乃ことのが俺の服の裾をちょいちょいと引っ張っていた。


「……」


 どうやらこの舌戦ぜっせん琴乃ことのの一人勝ちみたいだ……。




※※※



 

「じゃあね心春こはるちゃん! またねー!」


 ファミレスから出ると、木幡こはたが早々に琴乃ことのに別れを告げられていた。


「ちょ、ちょっと待ってよ! もう少し一緒にいようよ!」


 木幡こはたが半べそで琴乃ことのにすがりついている。


 な、なんか、ついさっきも琴乃ことので同じ光景を見た気がするなぁ……。


「これから唯人ゆいと君と出かけるんだから邪魔しないでって言ったでしょ」

「そ、そんなぁ……。私よりも湯井ゆい君を取るって言うの?」

「うん」


 バッサリ。

 琴乃ことのが容赦なく木幡こはたを切り捨てる。


 というか、俺これから琴乃ことのと出かける予定だったんだ。


 初めて知った。


琴乃ことの、友達なんだから少しは」


 あまりにも無慈悲だったので、俺は木幡こはたのフォローに回ることにした。


「ただの同級生のくせに偉そうにしないでっ!」


 ――が、何故かその木幡こはたに怒られてしまった!


 えぇえ……。

 俺、お前の援護射撃をしようと思ったのに!


「そんな風に唯人ゆいと君を怒らないで!!」

「う゛っ!」


 今度は木幡こはた琴乃ことのに怒られる。


 成長した琴乃ことのが、こんなに怒ってるところを初めて見てしまった。


「だ、だだだってぇ……ことちゃんは私がぁ……」


 琴乃ことのに怒られ、木幡こはたの顔が真っ赤になっていく。声を震わせ、目元には涙が溜まっていく!


唯人ゆいと君に意地悪する心春こはるちゃんなんて大っ嫌い!」


 琴乃ことの! 怒涛の追撃!


「嫌いだなんて言わないでよぉ……。だってぇことちゃんは、ことちゃんは私がぁ――」

「えっ?」


 木幡こはたの大きな目から大粒の涙がこぼれ落ちる!


「うっ、うぅううう。ぐすっ…。うぅううううう。おぇええっ」


 木幡こはたが嗚咽が出るほど泣きはじめてしまった!


ことちゃんは、ことちゃんは私がずっと守るって決めたんだからぁあああああ!」


 こ、木幡こはたがよく分からないことを言いながらわんわんと泣いている!


 俺が思っているよりも琴乃ことのに対するが感情がずっとずっと重かった! 


「私だって琴乃ことののことを愛しているのにぃいいいい!!」

「むっ!」


 ついに本性を現したなこいつ! 


 やっぱり女の子大好きっ子だった! 俺の琴乃ことのをそっちの世界に引き込ませるわけにはいかないぞ!


「うわぁあああああん!!」

「……」


「わぁああああああん!」

「……」


「あぁあああああああ!」

「……」


 こ、木幡こはたが一向に泣き止まない……。

 琴乃ことのも、どうしていいか分からずにおろおろしてしまっている。


「……琴乃ことの、言い過ぎだから謝りなさい」

「う、うん」


 木幡こはたが少しばかり気の毒になってきた……。


心春こはるちゃん。私が言い過ぎた。ごめんね」

ことちゃぁん!」


 琴乃ことのが声をかけただけで、木幡こはたがあっさり笑顔を取り戻した。


 な、なんなんだこいつ……あまりにもクレイジーすぎないか……。

 怒ったり泣いたり情緒不安定だし……。


心春こはるちゃん、これで顔を拭いて」


 琴乃ことの木幡こはたにティシュを渡した。


 木幡こはたの顔面の穴と言う穴からは色んな汁が出ている……。

 

「ありがとう……!」



ズビィイイイイイ!!



 木幡こはたが渡されたティシュで思いっきり鼻をかんだ。

 思春期の女子高生とは思えぬ豪快さだ……。


ことちゃん、ごめんね私!」


 木幡こはたがどさくさに紛れて、琴乃ことのに抱きつこうとしている!


「まずいっ!」



バッ!



 俺は、寸前で二人のあいだに入ってそれを阻止することにした!


「何?」

「それはちょっと」

「何であなたが邪魔をするの?」

「それはその――」


 ふぅ、危なかった。

 そんなことをして、琴乃ことのがそっちに目覚めたら大変だ。


「これは琴乃ことのを守るために」

唯人ゆいと君っ!」


 守るという言葉に反応して、後ろにいる琴乃ことのが俺の背中に抱きついてきた!


「えへへっ、お父さんの匂いが――」

「ちょっとーーー!」


 木幡こはたがまた激昂し始める!


 あぁあああ! もうどうしろっていうんだよこれ!


「ちょっとあんた! 琴乃ことのから離れなさいよ!」

琴乃ことのからくっついてきてるんだって!」

「あ゛ぁあああ! 許せない!」


 木幡こはた琴乃ことのから俺を剥がすように、俺に組み付いてくる!


「許せない許せない!!」



「お客様、入口の前で揉め事はちょっと……」



 ファミレスの店員さんが出てきてしまった……。


 本日二度目。

 またしても入り口前で店員さんに怒られた。




※※※




湯井ゆい唯人ゆいと君のせいでまた大恥をかいたわ」

「その言葉、そのまま返してやるよ」


 大急ぎでファミレスから離れた。

 今は、アテもなく三人で近所を彷徨さまよっているところだ。


 木幡こはたがさも当然のように俺たちと一緒に行動しているのが気になるところだが……。


「大体あなたいなければ――」

心春こはるちゃん!」

「う゛っ!」


 俺につっかかってくる木幡こはた琴乃ことのいさめた。


 ふんっ、大人気ないが少し気分がスッとした。


「ゆ、湯井ゆい君、ちょっといいかしら?」


 木幡こはたが、思いっきり顔を引きつらせながら声をかけてきた。


「なに?」

「私と携帯番号の交換をしてくれないかしら。あなたが琴乃ことのに変なことをしないようによっっっくと見張っとく必要があるので」

「はぁ?」


 木幡こはたが自分の携帯を取り出して、こちらに見せてきた。


 木幡こはたの携帯には“みーちゃん”ストラップがこれでもかというくらいに付いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る