優しい、ね

鈴乱

第1話


「優しそう、ね……。


 え? あ、うん。ありがとう。


 ……ありがとね」



心の中で、声がわめく。


  

『きっと……、今だけだよ。みんな、そうだったから』


 かつて僕を優しいと評した人たちは、軒並み僕のもとから去っていった。


 「優しい」は素敵なことだけど……「優しい」って言葉は、僕には痛い。


『きっと、君も去っていくんだろうね』


 横目で彼女を見ながら、僕は思う。


『今は笑っていたって、いつかは……』


 いつか、「優しくない僕」に出会った時、君は僕に幻滅して、僕のそばから離れていく。そうに決まってる。


『……いいよ。慣れてるから』


 新しく出会いがあれば、その喜びと共に少し先に来たる切なさも予感する。


『みんなが求めて欲するのは、"優しい僕"であって……その奥にいる、"醜い僕"じゃあ、ないんだもんね』


 よく知ってる。何度も何度も思い知らされてきたんだ。


 ……迫害された"醜い僕"は、どこに行けばいいんだろう? どこに行けば、"醜い僕"も居場所を得られる?

 いつ、どこにいれば、"ここにいていい"って確信が得られるんだろう……。


 答えのない問いが、頭をめぐる。


 けれど、それを悟られないように、僕は彼女に笑ってみせる。


『ねぇ、僕は上手く、笑えてる?』


 本心を隠すために身につけた、完璧な微笑み。


 これが通用するうちは……僕はまだ大丈夫。大丈夫……なはず。


 だけど、少し……。


 少しだけ、疲れちゃった。


 誰でもいい。誰でもいいから……どっちの僕も、『僕でいい』って愛してくれないかなぁ……。

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優しい、ね 鈴乱 @sorazome

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