第11話:光舞う夜に

夕食後、星琉とイリアは庭園に出ていた。

お城に泊めてもらっている間、夕食後に2人で庭園を散歩するのが日課になっている。


剣術大会は明日の午前に準決勝、午後に決勝戦が予定されていた。

星琉たちの滞在期間は大会の終了2日後までで、明日の夜はまた立食パーティがあり、明後日の朝には大会参加者全員のパレードがあり、それが済んだら帰る予定となっている。

2人で散歩する日々も終わりに近付きつつあった。


この時期は晴天が続くそうで、夜空には満点の星々が瞬く。

白い薔薇に似た花をつけた低木の枝葉で、羽根を休めるのは光の妖精たち。

多くはその花の中を好んで眠っていて、白い花が発光しているように見えた。

その近くを通ると、目を覚ました妖精たちが蛍のようにフワァ~ッと舞い上がる。


「起こしちゃってごめんね。寝てていいのよ」

イリアが妖精たちに話しかけた。

淡い光を放つ小妖精たちは、聖女を慕うようにその周囲に舞い集う。

イリアの金の髪も白い肌も微かな光に包まれて、神々しく見える。

幻想的で美しいその姿に、星琉は見惚れていた。

妖精たちは少女の胸元にあるペンダントの守護石にも、惹かれるように集まる。

そこに神の力が込められていると分かっているようだった。


そして妖精たちは、星琉の方にも寄って来た。

「?」

何だろうと思っていると…

『イリアを…護って…』

星琉の頭の中に【声】が流れ込んできた。

「え…?」

「どうしたの?」

キョトンとする星琉にイリアが聞いた。

「なんか今、頭の中に声が…」

「妖精たちが使う【念話】ね。伝えたい相手だけに使う声で、余程慕われてないと聞こえないのよ」

軽く困惑する星琉に、イリアが教えてくれた。

光の妖精から話しかけられるのは聖女か聖者くらいらしい。

「何て言われたの?」

「…イリアを護れ…って」

「それで、星琉は私を護ってくれるの?」

「うん」

聞かれて答えると、少女は少し頬を染めて嬉しそうに微笑む。

その肩にとまった妖精も、ニコッと微笑んだ。

「こっちに来た時だけだから、俺にどこまで出来るか分からないけど」

星琉は言う。

この世界でヒューマンじゃ相手にならないなどと女神に言われるステータスとはいえ、立場上は平民それも学生である。

必ず護ると安易に宣言してはいけない気がした。


「じゃあ星琉、私の守護騎士になってくれる?」

「守護騎士?」

イリアの提案に、星琉が質問した。

「護衛の事?」

「護衛は外出時の警護のみだけど、守護騎士は王宮内でも傍にいて守ってくれるの」

少し照れた顔をして、イリアがそっと寄り添ってきた。

「王族にとって、近くて頼れる存在よ」

「それって異世界人がなれるもの?」

星琉も照れながら聞く。

「歴史では異世界人の守護騎士がついた王族も複数いたと伝えられてるわ」

寄り添いながらイリアは言う。

昔は片道だけだったという異世界転移、瀬田の発明した転移マシンで往復可能になる以前の転移者は、そのまま永住していたらしい。

転移効果で高い能力がつく異世界人が守護したら、かなり頼もしかったに違いない。


…しかし…


「守護騎士は俺じゃなくて、ずっとこっちにいる人の方がいいと思うよ?」

星琉は言う。

自分はずっと傍にはいられないから、ふさわしくないのでは?と。

「私は星琉がいい…」

「…イリア?」

呟くように言う少女に、星琉はキョトンとした。

「星琉は強いだけじゃなくてダンスも踊ってくれるし、私と対等に話してくれるから…!」

「………」

不意に抱き締められて、星琉は戸惑う。

イリアに抱きつかれるのは空港でも経験していたが、今回はその時とは違う気がした。

女性が多い家族で祖母や母や姉や妹たちにハグされた事は多少あるが、それとは感覚が違う。

何故抱きつかれてるのか?

どう反応したらいいのか?

ここは抱き締め返すところか?

しばし考えて、そっと腕を伸ばして抱擁してみた。

空港の時は気付かなかったが、イリアは微かに甘い花の香りがした。

「帰らないで…」

星琉の胸に額をつけ顔を隠すようにして、イリアは言う。

「ずっとこっちに居てほしいの…」


星々は静かに瞬き、妖精たちは花の中へ戻ってゆく。

乱舞していた光が無くなり、庭園は少し暗くなる。

足元にポツッと雫が落ち、彼女が泣いていると察した星琉は何も言わずにその頭を撫でる。


彼としては初めて会った時から心惹かれていた。

何者かに命を狙われている事も知って、護りたいと思う相手にもなっている。

出来る事ならずっと傍に居て護ってあげたい。

来年卒業したらこっちに住んで働くか?

が、ただの平民に王族の守護騎士なんて高位の職が務まる気がしない。

そういうのは貴族の中で武術に優れた人がするものだと思った。


…でも…


空港で武装集団に倒されていた護衛たちを思い出す。

あんな風に多勢に無勢となった際、切り抜けられる者は少ないかもしれない。

自分なら敵を制圧出来るかもしれない。

獣人ボルみたいなのが大群で来たら難しいかもしれないが。


「俺もイリアの傍にずっと居たいよ」

考え続けた後に星琉は言う。

「でも守護騎士じゃなくて、冒険者になって護衛するよ」

「…!」

イリアの背中がビクッと震えた。

「でも、今すぐはその…学校があるから…卒業してからでもいいかな?」

「………」

提案したがイリアは答えない。

「1年もかからないよ…3学期は自由登校だし…」

「………」

言葉を続けたが、相手は俯いたまま。

「あ、住むのは出来ないけど今年だってこっちに来るよ?学校帰りに直行で」

「………」


イリアの無言が辛い。


「…ごめん…ね。無理言っちゃって…」

しばらく間があって、イリアが俯いたままそっと離れた。

「この事は忘れて…聞かなかった事にしてね。おやすみ…」

かける言葉に迷う間に、少女は走り去ってしまった。


…直後

『セイルの馬鹿っ!』

小妖精が蹴りを入れてくる。

星琉は本能で咄嗟に避けてしまい、勢い余って地面に転がる妖精。

「…あ、ごめん」

思わず謝る星琉。

『馬鹿馬鹿馬鹿ぁ~っ!』

近くにいた妖精が一斉に蹴りを入れに飛んで来るが、やっぱり本能で全部回避してしまう。

哀れ、地面に転がる小妖精の群れ。

皆で起き上がり涙目で睨んでくる。

「ほんとゴメン!」

星琉はまた謝った。

「どうするのが良いのか、まだ俺にもよく分からないんだよ」

妖精たちに言い残して、星琉も庭園から立ち去った。



扉絵イメージ第11話:光舞う夜に

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818023212968559675

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