縁結


 このようにいつもお可愛らしい旦那さまですが。

 

 仕事の話でついつい私が父を褒めてしまいますと、よく拗ねておりまして。

 もうそれも可愛くて堪らないのですが。

 今まで何も知らぬでいたくせにと、父に直接不満をぶつけることもたびたび。


 それがまた、義理とはいえ新しい親子の形が結ばれていくのを見ているようで、私はいつも嬉しくなるのです。

 とても勉強になるのですよ。


「だからもうアルバのことも忘れてしまおう。な?」


 ふふふ。

 アルバのことでも眉間に皺を寄せる旦那さま。とても素敵です。

 もう少し見ていてもよろしいですか?


「こうして今日も二人で過ごせているのだって、アルバのおかげですよ。旦那さま」


 アルバは、私たちの結婚も導いておりました。


 祖母が生きていたときから侯爵家に仕えていたアルバは、かつて祖母が築いていた縁で辺境伯家には結婚を打診し、言葉少なく母を見事に誘導してみせたようです。

 アルバだからこそ、母を刺激する言葉をよく知っていたのでしょう。


 顔合わせなしの結婚というのは、辺境伯家にとっても貴族として非常識な行いになりますが。

 そこもアルバが上手いこと導いておりました。


 辺境伯家の皆様もなかなかご領地を離れられないでしょうし、ちょうどお嬢様がそちらまで旅をすることになったので、良かったらお見合いしましょうと。そのような感じです。


 辺境伯領に来たばかりの頃は何か皆様と通じ合えていない感じを受けていましたが。

 それは何も私の育ちが変わっているせいだけではなかったようです。


 私のおかしさに気付いた旦那さまがもう返さないと言ってそのまま結婚。


 アルバにはいつまでも感謝をしていたいと思います。


 それでも旦那さまが私を気に入ってくださらなかったら、このように結婚はしていなかったので。

 旦那さまにもとびきり感謝し続けないとですね。


 ですから。


「拗ねないでくださいませ、旦那さま。大好きですよ、旦那さま」


 ふふ。すぐにお耳が赤くなる、旦那さま。

 今日もとても大好きです、旦那さま。


 アルバは旦那さまとのご縁がなかった先の候補も考えてくれていたそうですが。

 これは旦那さまがとても拗ねてしまうので私ももう忘れることにしています。


「それは父親の前ですることかね?」


「そうだよ。姉上も少しは気にしてあげなよ。男親は娘のこういうのが辛いらしいよ?」


 父と弟が頷き合っておりましたけれど。


「ふん。彼は引き際を見極めた立派な男だというのに。お前たちのせいで、リーチェはいつまでも侯爵家を忘れられん」


 旦那さまは父の行いに対しては大変に根に持っているようです。

 けれども私が嬉しそうだからと、三人を快く辺境伯領へと受け入れてくださった旦那さま。


 そんなお優しい旦那さまが、大好きですよ旦那さま。


 お義父さまとお義母さまと父は、ちょこっと揉めましたけれどね。

 そのときの旦那さまも素敵でした。


「はぁ、やれやれ。これ以上は辛いから退散するとしよう」


「そうですね。ちょうど書類整理も終わったところですし。姉上、くれぐれも無理はしないでくださいね」


 と、二人の方が書庫から出て行ってしまいましたが。

 私たちもここに長居をする理由はありません。


 旦那さまと一緒に、それから少しお外を散歩することになりました。





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