再会
お城の舞踏会から日を重ね。
その日私たちは王都の侯爵邸を訪問することになりました。
はじめに馬車を降り、その重厚な扉の前で感じたこと、それは懐かしさです。
長い時を重ねた場所からしばらく離れ、戻ってきたときに生じる感慨というものを、私は生まれてはじめて経験しておりました。
「大丈夫か、リーチェ?」
私はしっかりと旦那さまの目を見て頷きます。
旦那さまがお隣にいて、私には怖いものなどありません。
扉の向こうから最初に現れたのは、私の知らない男性でした。
この三年の間に新しく雇った使用人なのでしょう。
その男性は「お待ちしておりました、辺境伯ご夫妻ですね」とそれだけ言ったあとに、私たちを見知った応接室へと案内します。
弟が出迎えに現れなかったことは意外でした。
父は大臣としての仕事が忙しく遅れて現れる体になっておりますので、代わりとしてあの人か弟が出迎えてくれるだろうと予測していたのです。
こちらでお待ちくださいと言葉を掛け、お茶を用意してくれた男性が去ったあとに、私たちは応接室でしばし時を過ごすことになりました。
「リーチェの過ごした部屋を見られるだろうか?」
「どうでしょう?まだ残されているとは思えませんが」
「戻るよう言って来るくらいだ。さすがに残してあるのでは?」
私は話しながらも、ついちらちらと壁際を眺めてしまいます。
そこには私たちが連れてきた従者三名が並び立っていました。
確かに主人以外は、訪問先で座らないことが常ですし、おかしなことではありません。
けれども今回ばかりは……。
その明らかに怪しい髪型とメガネが特に気になって……。
旦那さまは流石と言いますか、誰がお側にいようとも大変寛いでいらっしゃるご様子。
けれども出されたものには口を付けない警戒心は保ったまま。
それに対し、流石は辺境伯をされてきた方だと、私はまた旦那さまに尊敬の念を頂くのでした。
そんな私も、ここに来る前に旦那さまからよく注意を受けておりましたので、お茶のカップを手に取ることは致しません。
するとお喋りをしているくらいしか、ここではすることがなくなってしまうのですが。
あまり時間が長くなっては、壁際の方々が心配になってきますね。
今日は急ぎ本題に入り、この場を早く切り上げられるとよろしいのですが。
「リーチェが育った場所と思えば、長く過ごしたくもあるが。侯爵が現われるまでここで待たされるという終わりのない事態にはならないよな?」
「そうはならないと思いますよ、旦那さま」
あの人は父がいると、私には何も言えません。
ですから父が遅れると分かれば、この機を逃さないと思うのです。
ただ体調が悪いというお話が本当であれば、また違った反応も考えられます。
その場合にはこちらも対応を練り直す必要が──。
それは杞憂に終わりました。
合図もなく部屋の扉が開かれて視線を向ければ、そこにいたのはその人だったからです。
私が久しぶりにそのお顔を見て感じたことは、とてもお元気そうですね、というそれだけでした。
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