ほろり

@rabbit090

第1話

 「どうして私に嘘をついたの?」

 ということを考えた。

 セリフは浮かぶけれど、どれも嘘ばかりでどうしようもないように思う。

 私生活では常に、ギリギリの状態で生きている気がする。

 安定とはどこにあるのか、けどそれ相応に生きていく術を身につけてしまっていて、今度は幸せというものは何かということに行きついてしまう。

 けれどその全ての根源はきっと、私が抱えていることにあるのかもしれない。


 お茶でも飲もうか、と思って駅前のコーヒーショップへ出かけた。けど、ここまで来るのも本当は一苦労で、来たら来たで居心地が悪くなってすぐに外へ出たくなってしまう。

 「はあ…。」

 一息で十分だった、私にはこれだけで、満たされるものがある。

 というか、そもそも直近の激務で、体が疲弊しまくっている。手にはマメがある、非常に痛い。

 けれど、私は仕事が好きだ。

 仕事をしていると、妙に重たい気分と闘わなくていし、体がとても冴えている。

 ずっと、仕事って何だろう、意味あるのかななんて思っていたけれど、最近は何となく、体感として、仕事は人生に、(私にとっては…!)必要なものなのだと思っている。

 やっていれば、余計なことを考えずに済む。

 けれど私は割と、行き詰った人生を生きているので、これが続けられるのかは定かではない。

 (なるべくだったら続けたい。)

 「ああ、やばい。」

 最近はこればかり、なぜなら全く、物事が上手く行っていないから。

 いや、本当はすごく上手く行っていることもある、が、どうしても進めたいことは進まない。

 

 「寒い。」

 上着がもう薄いかもって思うような季節に一気に進んでしまった。

 私は、全てを忘れたかった。

 全てを、忘れるにはやっぱり、仕事が一番なのだ。

 とてもつらかった時に、辛いけれど、仕事は私を救ってくれたのだ。

 だから、私はできればこのまま、生きていきたい。

 決して難しくても、でも、なんとか。

 微妙に寒い風を受け、ガチャリとエンジンをかけて外へ出た。

 

 「ノンフィクションって何?」

 「何?」

 「知ってる、嘘が無いってことでしょ。」

 「そうだけど、嘘、じゃないの?」

 「嘘ではないよ、ねえ。」

 「何よ。」

 「そんなに不機嫌にならないでよ、僕は別に、君に対して何かを求めたことなんて無いんだ。僕は、分かるだろ?」

 「………。」

 「ああ、そうだよ。僕は、僕はもうそういう所は無くなってしまったんだ。何かを、なんて無いんだ。」

 「分かってるってば。」

 「…分かってるなら、泣かないでよ。」

 

 …私は茫然とした様子で見降ろした。

 分かっているよ、あなたは、そう、おかしいけれど、そう。

 世界って、手の中にあるものなんかほとんどなくて、多分割合にすると、えっと、例えられないな、まあ、多分見えないくらい、意味が無いってことなんだ。

 強がっているわけじゃない、けれど、私は今日も、あなたの手を掴んでいた。

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