第23話

 穀物を50キロ持ち帰ったエイナイナをヤーナミラは歓迎してくれた。そしてドニアマ商会宛ての手紙にあったとおり、空賊稼業についていろいろと教えてくれた。つまり、空賊はケルメス帝国と敵対するキオーニ王国から支援を受けて、帝国の船に損傷を与えているのだ。その空賊の成果を手紙でドニアマ商会に自己申告し、その成果が確認されれば支援物資が支給される。成果は認められることもあるが、認められないこともある。しかし帝国の新聞に載るような事件になれば確実に認められた。


 空賊の持ち帰る穀物や干し肉といった食糧は、王国からの支援にしろ標的の船が直接払う通行料にしろ、ケンデデスで一括管理され、ケンデデスの住人に平等に分け与えられる。食堂が無料で利用できるというのはそういうわけだ。


 これは概ねエイナイナの推測の通りだったが、もう一つの推測、ヤーナミラが帝国、おもにルッパジャ伯領に対する復讐を目的として行動しているのかについては分からなかったし、エイナイナも尋ねなかった。エイナイナもキッドニアでの出来事など仔細しさいに話すことはなかった。




 翌日からエイナイナは現場に復帰した。相変わらず空賊行為を肯定する気にはなれなかったが、しかし彼らが空賊をやっている理由は理解できるようになった。自分もこうして少しずつ空賊になっていくのかもしれないと考えると、少し怖くもあり、少し気が楽でもあった。



 しかしさらにその翌日。朝起きてヤーナミラのドックに顔を出すと普段と様子が違っていた。ヤーナミラやクウェイラ、バーボアらが集まり険しい顔で何かを話していた。そこにシューニャの姿は無かった。


「なにかあったのか?」

「シューニャが居なくなった」とヤーナミラ。

「居なくなった? この飛行船で居なくなるも何もないだろう」

「シューニャのディンギーが無いんだ。じつのところ、行先には心当たりがあるんだ」とクウェイラ。

「と、いうと?」

「間違いなくディンギーレースだ。ディンギーレース、シノニッタはいだ」

「ああ、6年ぶりに開催されるというディンギーレース?」

「そう。シューニャはむかしからシノニッタ杯にこだわっていた」

「あいつは上手いからね」とエイナイナ。「腕試ししたい気持ちはわかる。別にいいんじゃないか? やらせてやれば」

「シューニャはキッドニアに戻れば逮捕される。腕に彫られた刺青いれずみが見つかれば確実にお縄だ」

「あの刺青はそういう意味だったのか……。しかし、そんなことは本人もわかっているんだろ?」

「四年経っている。シューニャの年齢の四年だから顔を見てお尋ね者とバレることはないのかもしれない。シューニャはなんとかなると思っているのだろう」

「四年……? ということは戦争か?」


 空賊行為が問題になっているのかと思ったが、どうやら四年間は顔をみられていないらしい。つまりルッパジャ伯領とキッドニアの戦争中に、ルッパジャに捕まり、その時に刺青いれずみを入れられたのだろう。


「エイナイナ、シューニャを連れ戻してくれないか?」と言ったのはヤーナミラだった。

「は? 私が? あいつを?」


 ヤーナミラは、いつもの果断なリーダーというよりは娘を心配する母のように見えた。以前ヤーナミラはシューニャの親ではないとそっけなく言い捨てたし、しかもシューニャを個人として尊重しているというような態度をとっていたが、実のところわが子のように思っていたのだろう。


「ヤーナミラやおれたちはシューニャと同じだ。キッドニアには戻れない。エイナイナ、おまえなら絶対に怪しまれることはない」

「ヤムはどうなんだ? ヤムはモーネダリへは行ってたんだろ?」

「ぼくは刺青いれずみこそないが、ルッパジャには顔を知られている」

「まあ、そうか……。――わかった。行くだけ行ってみようか」

「行ってくれるか」

「可能なら連れ帰るが、命に代えても連れ帰るというほどの覚悟は無い」

「それでいい。どうかシューニャを頼む」と、ヤーナミラ。「一応、ヤムとクウェイラをシノニッタの北方に待機させる。ヤムならお前たちの機体を見つけられるかもしれないからね。しかしもし合流できなくてもそのままここに帰ってきてくれ。」

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