未来

 ――――……

 ――……

 ……


 ルーナ・ジェーナは、笑っていた。

 楽しそうな声をあげて。

 クレタと呼ばれる少年を導きながら。

 森の中を歩いていた。

 今より少しだけ髪が伸びたルーナ・ジェーナ。


 クレタが訊く。

 ルーナ・ジェーナが答える。

 なにやら楽しそうな会話。


 笑い声。


 聞こえるのは他愛もない話。

「ルーナ・ジェーナは、何歳なの?」

「私は、クレタより年上ですよ。こう見えても」

「どのくらい?」

「十は離れていたと思いますけど……」

「じゃあ……」


「クレタさま、女性に年齢を訊くのは少々失礼な気もしますが」

「そうなの? アルテミス。

 ルーナ・ジェーナ、ごめん、失礼なことを訊いてしまって」

「そうね! アルテミスの言うとおりだわ」

 アルテミスという名に、

 ルーナ・ジェーナは、かつて姉のように慕った巫女がいたことを思い出す。


「ワタシのデータベースによりますと、ルーナ・ジェーナの年齢は……」

 少年に近づく機械に 懐かしい巫女の影が、映ったような気がした。

 それは、

 何かの見間違いか、

 単なる偶然か。


 いつか、再び会える日が来るのだろうか。


 クレタの側を蝶がひらひらと舞っている。


 甘い香りに包まれて。


 ……

 ――……

 ――――……



 ルーナ・ジェーナは、夢から醒めた。




 そう、

 ルーナ・ジェーナは、何一つ覚えていない。


 けれども。

 手離した記憶が戻ってきたら、

 少年が連れてくる が訪れたら、

 思い出すかもしれない。


 だから、今は、

 ここであなたを待っている。


 ムーンフォレストの番人、

 ルーナ・ジェーナは、

「その時」が来るのを待っている。


 空では、静かに 白い月が

 ルーナ・ジェーナを見つめている。






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