回想

 ルーナ・ジェーナは、夢の中。


 ゆらゆら 揺れて 夢の中。


 ふわふわ かおる 夢の中。


 ――――

 ――……

 ……



『女神さま……』


 少女は、呼び掛ける。


 こたえる女神の 悲しげな声。


『わたくしは…… ……りましょう』




『では、その時がくるまでわたしの記憶も封印してください』


 少女は、哀願する。


『わたしは、ついうっかり、喋ってしまいそうです。……ですから、お願いします』


 女神さま、ひとり 眠らせはしない。


 少女の記憶も 女神とともに 眠らせて。



『ありがとう。やさしい、ムーンフォレストの番人よ』


 女神は、少女の願いを聞き入れ……


 記憶を 手放した 少女の時間が止まる。



 時計は進む。

 時間は流れ、


 ヒトは成長し、


 森は悲鳴をあげ、


 が、

 が、

 かつての 思いを 失いかけても。


 少女は、少女の姿のままで。


 ――……

 ……



 

 ルーナ・ジェーナは、夢の中。


 年を とらずに 森の中。


 役目があると 神殿へ

 番人として そこを離れず


 今日も 誰かを 待っている。


 花を摘みつつ

 何かを待ってる。



 蝶が ひらひら 舞っている……




 ゆらゆら 揺れて


 ふわふわ かおる




 


 森の夜は、静かに 続く。










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