あなたの色で、僕をみる
鮎川伸元
あなたの色
「ねぇ、hearとlistenの違いって何か分かる?」
僕の書く手を押さえつけ、僕の視線を強引に自分の方に変えさせる。ポニーテールがゆらゆらしてまるで飼い犬のような、女の子のような可愛さがあった。
「分からない.........。というか興味もない」
「正解は自然に耳に入ってくるか、意識して聞くかの違いでした~」
「あっそ」
また手元に視線を戻そうとすると、今度は鉛筆を取り上げられた。
「人の話を聞かない夏樹くんにはいいお勉強になったかな?」
こいつはこういう奴だ。せっかく人が集中しているというのに邪魔してくる。こういう時は何か僕に話があるのだろうが、きっとろくな話ではないことはもう十分に分かっている。はぁっとため息が唇からもれた。
「どうせ僕が黙ってたらずっとここに居続けるんだろ?..............................要件は?」
僕がそう言うと、君は目を輝かせる。
「今日の午後って休みじゃん?!どっか行こうよ~」
それは想定内の答えだった。
「普通に嫌だ」
僕は当然断る。
「いや何でよ。せっかくの午後休なんだよ?もうこれを逃してしまったら高校生のうちで青春ができる機会なんて無いよ?!陰キャの夏樹は特に」
「いや、だからいかないって。そんなことしている暇なんて僕には無いんだよ。時間がないし、良いネタもないし、何もアイデアが僕から出てこないんだ。このままじゃ............何も作品ができない。そうなったら僕は、価値が無いのと同義だ」
僕の声が意外と大きかったのか、二人しかいないこの教室をこえて廊下まで鳴り響いた。君はやっぱりこういう奴だ。遠慮なく踏み込んできて、僕を加害者みたいにする。
「ごめん。強く言い過ぎた」
こういう時、君は何を思ってるのだろう。自分に必要な能力なのに、自分には分からない。考えられない、理解できない。
「じゃあ............」
ゆっくりと沈黙を破っていく君の声に、僕はただただその続きを待った。
「リフレッシュするために。君が何かいい影響を受けれるように。一緒に行こう」
僕に向けて君が手を伸ばす。細くて白い君の腕にあるコンシーラーが、光で微かに輝いた。
「海か山。どっちが好き?」
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