時代遅れの鬼軍曹は転異先でも新兵をシゴいています。

@mugimugi1002

①出会い

新緑が山々を覆い尽くし暖かい風が吹くと、過ごしやすい季節がやってきたことを実感する。


朝、起きたら散歩がてら畑の様子を見に行く。繁殖期前の動物たちは当たり前のように人の畑を荒らす。が、今日は大丈夫みたいだ。畑をぐるっと見回ってからは朝食を作る。祖父母と私の3人分。パンと卵、根菜のスープ。いつものメニュー。食べ終わったら村の子供のたちの面倒を見ながら畑仕事。これが結構しんどい。畑仕事だけなら良いが子供の世話まで入ってくると忙しさは格段に上がる。


昼、村から少し離れた所にある小川へ水を汲みに行く。途中にある祠へのお祈りも欠かさない。

村の外れ、川までの道中にはいつから存在しているのか分からないボロボロの祠がある。ポツンとある小さな祠。私はここが好きだ。


ここいると時間が止まっている感じがする。まるで別世界だ。


あんまりボーッとしてると子供たちが心配するのでささっとお祈りを済ませて川へ向かう。

祈る内容はいつもと変わらない。


(みんなが無事に帰ってきますように…)


その日を生きているだけでも奇跡だと祖父がよく言っていた。小さい頃は言っていることがよくわからなかった。でも、今ならすごくわかる。だから毎日のお祈りは欠かさない。欠かしちゃいけない。


お祈りを済ませたら川へ向かう。


少し前までは村の子供たちの遊び場でもあった小さな川。私もここで毎日魚を獲ったりしたものだ。


しかし、ここしばらくの間は子供たちを近づけないようにしている。


村の周りにも野盗が出るようになったからだ。

物を盗られるぐらいならまだマシなのだが、幼い子供は奴隷商に売り飛ばされるらしい。売られた後はどうなるかわからないし想像もしたくない。


もたもたしている暇もないのでパパッと水瓶を川に突っ込んでから思いっきり引き上げ、満杯の瓶を頭に乗せて急ぎ足で村へ戻る。


帰る道中も油断できない。むしろ今この瞬間こそ警戒すべき時なのだ。日課とはいえ、水瓶をもって川までの往復には体力を使う。私も野盗の立場なら、疲弊しているであろう帰り道を狙う。


なぜこんなご時世になってしまったのだろうか。

少し前までこの国は平和だった。

戦争とは無縁だと思っていた。

戦争なんて物は何百年も前の時代に起きた出来事だと父が言っていたし、争いなんてものは街で酔っ払い同士が喧嘩をするぐらいの事だとしか考えた事がない。


街に出れば戦争の噂で持ちきりだ。

近々隣国との大きな戦争が起きるらしい。

何を巡って戦うのかはわからないが私たちのような田舎者まで巻き込むのは勘弁してほしい。


それでも国はお構いなしだ。


若い男たちは徴兵され、それでは飽き足らず新しい兵力を求めて目を光らせている役人が街のそこら中にいる。


村の男たちも連れて行かれた。

その中には私の父もいた。

突然のことだった。父と畑仕事をしている間に役人がやってきて、父はそのまま連れて行かれたのだ。

別れの言葉も何もなかった。もしかしたらもう会えないのかと思うと何とも言えない気持ちになった。いつ父が帰ってくるのだろうか、無事に帰って来れるのだろうか。役人に聞いても教えてもらえない。


だから私は祈るのだ。

父のため、村のみんなのために祈るのだ。




帰り道も祠の前を通る。素通りするのも申し訳ないので祠に向かって会釈をした。が…


………?


祠の前で誰か倒れている…。



その場に水瓶を置いてゆっくりと近寄ってみる。


倒れているのは男だった。野盗に襲われて絶命しているのかと思ったがスースーと寝息をたてているので一応は生きているみたいだ。見たところ私の父よりも少し若そうな見た目をしている。


しかしこの男、奇妙な格好をしている。


苔のような色の服を着て奇妙な形の兜をかぶっている…


怪しい。怪しすぎる。


村周辺の男たちはもちろん、街の若い男たちもほとんどが軍の訓練所へ連れていかれたのだ。私の父より若そうな男がこんなところにいるわけがない。


この国の者ではないとしたら国を持たない流浪の民か、はたまた只の旅人か。


どちらにせよこんな所で寝ていれば明日の朝までには素っ裸にひん剥かれて無一文同然になってしまう。


ここで見捨てようとも考えたが、毎日祈る祠の前でそんな事をするのも気が引ける。


というわけで渋々男を揺さぶり起こすことにした。


「起きてください。こんなところで寝てたら野盗に襲われますよ。」


それなりに力を込めて男を揺さぶってみたがびくともしない。……この男、よくよく見てみれば凄い体格だ。背丈は私の父と同じぐらいだろうが体の厚みが全く違い、男には大樹のような重厚さがある。何を食べればこんなに分厚い体になるのだろうか。


揺さぶって起こそうとしても埒があかないので水瓶の中身を少し顔にかけてみることにした。


(バシャッ)


………あ、動いた。



「んあ?………やべっ。ちょっと寝てた。……あれ?訓練終わった?……うわっ!!!無線機ねぇじゃん!!!!」


と、男はよくわからん事を叫び、1人で勝手に慌てていた。

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