掌編400字・散歩
柴田 康美
第1話 散歩
ダロ夫人は散歩が好きだった。でもこのごろ歩いているといろいろなところからさまざまな声がするようになった。あたしは病気なのかしら。バラを買いに行こうと家を出た。ポインセチアのほうがいいかしらそれともフリージアもきれい。それとも・・まぁいいわ。おはようございまーす。バルコニーの花に水をやっていたメイドの声がしたけど姿はない。青空市場の八百屋がさけんでいるいいリンゴがあるよー地中海産だけど。このあいだ買ったのは虫食いだったのよ。サバはどうーですかいあたらしいんだかわないかーい。わるいけどきょうはパーティで料理がちがうのよ。おい、そのイヌ捕まえて!ケーキどろぼうー。あぁそういえばティカップの縁がかけていたんだっけ。たしか本屋の横の雑貨屋はここかしら。なにかお探しでしょうか?。青い花柄がいいな。ネコがとびあがって床におとしたのよ。あのネコはむかしインドの友人があたしの誕生祝いにくれたものなの。お義母さんに汚いから棄てなさいといわれた。あなたがかわいがってるトカゲよりマシだわよ。あれは爬虫類で舌をぺろぺろだして気味が悪い。この辺に噴水があったわね。また保守党が負けたんですね。パパこっちへきて。ごみをすてちゃだめっていったでしょ。きのうクリケットをやってね。つかれたよ。はやくしないと遅れるぞ。走らないで転んだら自分で起きるのよ。やれやれもう腰掛けようかなドレスだからめんどうだけどね。よいしょきょうは天気がいいからきもちがいいわ。このクッキーはちょっと甘すぎるわ。シュガーを入れないでといったのに。あ、そうそう花ね、デイジーの店がいいわよね。
ダロ夫人はまどろみのなかにいる。青い花柄のティカップはダイニングテーブルの上にある。きょうは散歩をしたかしらと考えている。
(了)
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