第48話 女王の迷い
「そう。色々と明らかになってきたわね」
アーシュラとデイジーが夜遅くに帰って来たその翌朝、クローディアは任務の報告を受けた。
アーシュラは帰還してすぐに報告を済ませようとしたが、クローディアが報告は明日の朝でいいから休むように伝えたのだ。
「スノウ家のような大きな家にまったく後ろ暗いところがないはずはないけれど、長女がそんな反社会的勢力と取引していると知られたたら足元をすくわれるんじゃないかしら。それに大統領を支援している一番の後ろ
アーシュラが得た情報によればスノウ家は以前はヤクザ者との付き合いもあったそうだが、大統領の支援をするようになってからはそうした黒い交際は断ち切ったそうだ。
いかに有力貴族とはいえ、民の間で良からぬ
そこはさすがに進んだ民主主義国家だとクローディアは感心した。
だが長女のマージョリーだけは一族の誰にも秘密にしたまま悪しき慣習を今も続けているのだ。
アーシュラは報告を続ける。
「マージョリーの学生時代の友人の1人が、例の空き家の元持ち主である没落貴族の息子だったらしく、どうやらその息子が悪い者たちとつるみ出したようで、その縁でマージョリーもヤクザ者たちと付き合うようになったそうです。そしてイライアス様の恋人であったミアを自殺に追い込んだ嫌がらせの首謀者が……その息子なのです」
「……そのことイライアスは知らないわよね?」
「おそらく」
重苦しい表情でそう言うアーシュラ。
クローディアは困り顔で
このことを彼に知らせるべきか
あくまでも彼の私的な事情であり、他者がその心に土足で踏み込むべきではない。
だが、彼の立場からすれば知っているなら教えてほしいと思うかも知れない。
しかし知れば彼は相手への
クローディアはこのことで自分がしばらく
そんな主の
「とにかくその息子のことは私の方で裏付けを取っておきます。イライアス様へ伝えるかどうかはその後、共に考えましょう。クローディア」
アーシュラの言葉にクローディアはわずかに心が軽くなるのを感じた。
主の判断にお任せします、と丸投げすればいいだけなのにアーシュラはそうしない。
友として共に悩むと言ってくれているのだ。
そんなアーシュラに感謝してクローディアは言った。
「アーシュラ。明日からはデイジーと2人で行動しなさい。デイジー。引き続きアーシュラのこと頼むわね」
「はい。お任せ下さい」
背すじを伸ばして敬礼するデイジーに頼もしさを覚えながら、クローディアはアーシュラに目を向ける。
「アーシュラ。あなたのしていることはワタシ、そしてダニアの今後のために正しいことよ。胸を張って任務に当たりなさい。事後のことはワタシが責任を持つわ」
次第に明らかになる事実がイライアスの事情を暴いていくようで、恐らくアーシュラが若干の心苦しさを覚えていることにクローディアももちろん気付いている。
その言葉にアーシュラは
☆☆☆☆☆☆
「イライアス様。今日も無理をされないほうがよろしいのでは?」
「クローディアに
双子の従者であるエミリーとエミリアがそう言う中、朝食を終えたイライアスは
「クローディアが休めと言ったのは昨日一日のことだ。今日俺が姿を見せても怒りはしないさ。それに投票日はもう明後日だ。これ以上寝ていたら選挙が終わってしまう」
そう言うとイライアスは後ろから付いてきた双子を
選挙戦はいよいよ大詰めだ。
明日は投票日前日の最終演説会がある。
この首都で最も人が多く入る会場に立候補者が集まり、有権者たちに最後の
そして明後日の投票日はもう立候補者やその支援者による選挙活動は出来なくなる。
すなわちクローディアが応援演説を出来るのは今日が最後ということになるのだ。
イライアスは
「……クローディアには
投票日の日没までが投票期間であり、日が暮れると夜を徹して開票作業が行われる。
そして翌朝には当選する立候補者が発表され、次の大統領が決まるのだ。
その夜には祝勝会が開かれる。
もし現・大統領が落選すればそれは
その祝勝会あるいは
イライアスは何だかそれがとても
そして
「ミア……俺にはそんな資格はないよな。おまえのことを守れなかった俺には」
イライアスはもう自覚していた。
自分がクローディアに
そしてそんな自分自身に腹が立った。
(浮わついた気分を味わうことすら俺には許されない。
愛した女性を守れなかった自分が、のうのうとまた恋をしていいわけがないのだ。
イライアスはバチンと左右の
そこには再び冷徹な光をその目に宿した自分自身が映し出され、それを確認するとイライアスは気を取り直して部屋の外に出た。
するとそこではエミリーとエミリアがわずかに緊張した
その手には一通の書簡を
「今……下女からこれを受け取りました」
「イライアス様へ
それはスノウ家からの書簡だとその家紋の印ですぐに分かる。
イライアスはそれをその場で開いて中身を確認し、
それは……スノウ家からの婚姻契約の打診だったのだ。
その長女であるマージョリーと自分との縁談がいよいよ現実のものとなる、運命の合図だった。
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