第23話 女王の出産
「ボルド……起きてくれ」
ブリジットのその声でボルドは目が覚めた。
ハッとして起き上がり
もう妊娠10ヶ月目になろうかという夜のことだ。
最近はさすがに夜の
私室の中にはシルビア用のベッドも用意し、彼女も同室で眠ってもらっている。
「ブリジット。もしかして生まれそうなのですか?」
緊張の面持ちでそう
「分からん……だがかなり強い痛みがある……」
ボルドはすぐに起き上がって
そうして部屋を明るくするとシルビアを起こした。
「シルビアさん。ブリジットのお腹に強い痛みが……」
その言葉にシルビアはパッと目を開けて身を起こした。
すっかり目が覚めたようで、シルビアは部屋に備え付けていた呼び鈴をけたたましく鳴らす。
そしてボルドに言った。
「落ち着いて下さい。ボルドさんはとにかくブリジットに寄り添い、背中と腰をさすってあげて」
ボルドは息を飲んで
すぐに呼び鈴に反応した
シルビアは助産師を呼んでくるよう衛兵たちに告げ、
その様子を見ながらボルドはいよいよ出産の時が来たのだと覚悟を決めた。
「ブリジット。大丈夫ですよ。私も……皆さんもついていますからね」
その言葉にブリジットは
☆☆☆☆☆☆
「ふぐぅぅぅぅぅ!」
ブリジットの悲鳴のような声が部屋中に響き渡る。
ブリジットの私邸である『
少し離れた部屋の
室内には彼女たちの指示に従って忙しく動き回る2人の
そして入口には衛兵の2人が
皆、女王の出産を今か今かと待ち
「あああああっ!」
ブリジットの声はおそらく一階まで聞こえているはずだ。
部屋の中でただブリジットの奮闘を見守るしかないボルドも、全身に思わず力が入っていた。
ブリジットがいきむ
そして数時間に及ぶ奮闘の最中、ブリジットがたまらずにボルドを呼び寄せた。
「ボルド……ボルド! 来てくれ!」
その切迫した声と表情にボルドは
だがシルビアがそんな彼を押し留める。
「いけません。ボルドさん。今、ブリジットは力の手加減が出来ません。あまり近付かれては……」
ブリジットは異常筋力の持ち主であり、その腕力は人並み外れている。
彼女は今、丸太から切り出した木材に羽毛
だが、力むブリジットの腕力によって木材はミシミシと音を立て、今にも割れてしまいそうだ。
そんな彼女に
しかしボルドは
「私はブリジットの情夫です! ブリジットが苦しんでおられる時に一番お
そう言うとボルドはシルビアを押し
ブリジットは抱き
「お
「ボルド……ボルド……ああああっ!」
ブリジットは一層高い波によって胎内から子が押し出される感覚を覚え、叫びながらボルドに強くしがみつく。
いつもは優しくボルドを抱き締めるブリジットの腕の力が強く、ボルドの体はミシミシと悲鳴を上げた。
だがボルドは真一文字に口を引き結び、それに耐えてブリジットを抱き締め続ける。
そして……その時は来た。
「ぬあああああっ!」
ブリジットが
そしてブリジットが産み出した赤子を助産師はしっかりと両手に受け止めた。
「産まれました!」
そう叫ぶと助産師は用意しておいた
その瞬間、口の中に空気が通った赤子が
しっかりとした張りのある強い泣き声だった。
「おめでとうございます。ブリジット。元気な女の子ですよ」
そう言うと助産師は柔らかな綿布に包み込んだ女児をブリジットに見せる。
ボルドにしがみついていたブリジットは震える手を伸ばして、綿布越しに赤子の温もりに触れた。
「プリシラ……産まれて来てくれたんだな」
声を震わせてそう言うとブリジットはボルドと顔を見合わせ、
ボルドも感動のあまり言葉に詰まり、涙を流しながらブリジットの肩を
後に第8代ブリジットとなる王女プリシラが誕生したのは、まだ朝日の遠い真夜中のことだった。
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