第19話 対立

 僕が副教官についてモヤモヤしながら授業を受けていたある日、とうとうピンク髪の鞭使いの女の子とミザリー・アレグラ副教官が衝突した。


 ――僕は、彼女に勝ったことにより「代われ」と言われることはなくなっていた。「まぐれで勝ったからって調子に乗らないでよね!」とは出会い頭に毎回言われるけど。ひとまずは実力を認めてもらえたみたいだ。

 そうそう、ジェシカ・エメラルドさんのことは相変わらず敵視しているけど、やはり実力は認めているようで「実力不足」とは言わないな。


 ところがだ。ミザリー・アレグラ副教官はなぜアッシュ・ウェスタンス教官のサブについているのかさっぱりわからない状態で『べったり』なのだ。彼女が担当しているはずのナンバー99小隊である僕がさっぱりわからないんだから、他所のチームからしたらもっとわからないだろう。


 ミザリー・アレグラ副教官が珍しく一人で廊下を歩いていた時、鞭使いの子がつかつかとやってきて彼女の前に仁王立ちした。

「ちょっとアンタ! あたしのアッシュ教官にちょっかいかけようったって無駄よ。非っ常〜に見苦しいからもう少し離れなさい!」

 って言い放ったよ。


 うわぁ、すごいなあの子。いくら副であろうと何もしてなさそうだろうと、一応彼女は教官ではあるのに、あの言いぐさだもんな。

 いつもにこやかに泰然としているミザリー・アレグラ副教官も驚いたらしく、啞然としている。だって、陰口じゃなくて堂々と面と向かって言い放ったもんね。そりゃあ啞然ともするだろう。

「……何を言い出すのかと思ったら……。私は副教官としてそばにいるのよ?」

「そんなふうに誤魔化しても無駄! だってアンタ、全然仕事してないじゃん。それとも、あたしのアッシュ教官に媚を売ることが仕事だってワケ?」

 鞭使いの子、痛いところを突いてきたぞ。いくら弁明しようと、副教官の仕事はしていないからね。あれが副教官の仕事だって言うなら僕、副教官の仕事をしたいよ。


 でも、ミザリー・アレグラ副教官は全くもって痛くも痒くもなかったらしい。なだめるように微笑みながら諭すように言った。

「そんなことを言われても困るわね。私は、私の仕事をこなしているのだもの。あなたにはあなたのやるべきことがあるでしょう? この学園の生徒なら、男に現を抜かす前にもっと勉強しなさいな」

 いいこと言っているようなミザリー・アレグラ副教官だ。ただ、ご自身も自分の仕事とやらをもう少し見つめ直したほうがいい気がします。

 鞭使いの子が今度は啞然とした。うん、『どの口でソレを言う?』って顔に書いてあるね。しかも彼女、それなりの実力があるし、成績上位者だし。なのにそう言ったからね。

 鞭使いの子が啞然としているその隙に、ミザリー・アレグラ副教官はにっこりと笑って去っていった。

 さすがにミザリー・アレグラ副教官のほうが上手だったな。


 だけど、ある意味負けてないのが鞭使いの子だった。

 先の衝突以降、二人が舌戦を繰り広げている光景がしょっちゅう見かけられることになったのだ。

 アッシュ・ウェスタンス教官にべったりとはいえ、ミザリー・アレグラ副教官にも生理現象はある。トイレで離れた際を狙って鞭使いの子は現れ仁王立ちし、舌戦の火蓋を切っていた。


「あのクソ女、ジェシカからアッシュの腰ぎんちゃくにターゲットを変えたみたいだな」

 二人の戦いを見かけたリバー君が呆れたように言う。

 一緒にいたジェシカ・エメラルドさんは無言で肩をすくめている。

 ちなみに、キース・カールトン君は別の女子たちに捕まっていてここにいない。


 隊長は、あごに手を当てて考えている仕草をした後、急に僕を見た。

「な、なんですか?」

 僕はびっくりして隊長に尋ねた。

 すると、隊長は僕によくわからない質問をしてきた。

「君はアレをどう見る?」

 アレって……あのキャットファイト?

「楽しそうですね!」

 僕がそう言ったら、二人が噴き出し、隊長が目をパチパチさせた。

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