第4話 VR演習

 VR用ヘッドギアを被り、起動する。すると僕は仮想演習場に降り立った。

 見たところ、森林の中のようだ。最新で最先端という触れ込みは本当のようで、とてもリアリティがある。


 キョロキョロしていると、現れたジェシカ・エメラルドさんに声をかけられた。

「VR演習は初めて? まずはマップをダウンロードして、自分のいるベースを確認してね」

「は、はい」

 親切な人だなぁと感心しつつ、ダウンロードする。

「いまいる場所をベースとして、ここから出発して、アンノウンを探して討伐するの。討伐までの時間が成績になるから」

 僕はうなずいた。


 改めて見ると、彼女は本当に綺麗な人だった。

 オレンジの瞳が輝く顔はとても整っていて、すらっとして背が高い上に胸がとても大きい。スタイル抜群というのは彼女に対して言うのかもしれない。

 くすんだ黄緑色の髪をおろし、左サイドのみ三つ編みしている。

 だから気づいたんだけど、左こめかみに傷がある。顎にも少し。どうしたんだろう。

 彼女が僕の視線に気付いて、「なにか? 聞きたいことがある?」と聞いてきたので慌ててしまった。

「いいい、いえ! なんでもないです!」

 わたわたと手を振って否定すると、彼女は笑った。

「遠慮なくなんでも聞いて。それと、重要なことを教えておくわ。隊長命令は絶対だから、指示に従ってね」

 隊長? あ、あの女の子。

 僕は彼女を捜そうとしたら……

「うわぁ!」

 真後ろに立っていた! びっくりするなぁ!

 というか、ジェシカ・エメラルドさんも距離感が近いし、隊長のクロウ・レッドフラワーさんも近い。威圧的じゃないからいいけど、あんまり近付かないでほしい。

「な、なんですか?」

「マップがダウンロード出来たなら、今からすぐ討伐に行ってもらう」

 え? もう?

「えっと、あの、ここがベースなら、拠点の設営は……」

 しどろもどろに尋ねると隊長は首を振った。

「それは簡易的なものでよいのだ。まずは倒すことを学び、その後設営や倒したアンノウンの運搬などを演習で行う。卒業するまでにひととおり出来るようになればいい、という話だ。それで、拠点構築は私一人で行う」

 えっと、でも、隊長一人にやらせるべきじゃないんじゃない?

 まごまごしていると、ジェシカ・エメラルドさんが気付いて言った。

「彼女は魔術師で、移動が不得手なの。迎撃は素晴らしいのだけど自分から攻撃するのは向いていないから。だから、私たちが彼女の手を煩わせないように最速で叩くのよ」

「あ、そういう感じなんですか……」

 むしろ、隊長はなにもやらない人らしい。


 マップに赤い点が現れた。

「え!? コレ何!?」

「索敵魔術により、私が予測したアンノウン出没地点だ。では、健闘を祈る」

「「「ラジャー!」」」

 三人がかしこまって敬礼した。まるで軍隊のようだな。


 驚いていたら、リバー・グリフィン君に叩かれてしまった。

「イタッ!」

 彼は不機嫌に僕を促した。

「ボーッとしてんじゃねぇ。とっとと行くぞ。……少なくとも防衛特科に転入した程度の実力は見せてもらわねーと、腹の虫がおさまんねーからな。せいぜい活躍しろよ」

 なんか無茶振りしてきたんだけど!? 僕、アンノウン討伐なんてしたことないよ!


 ×印の地点に向かいながら、僕は不思議に思ったことを尋ねた。

「あ、あの……。普通、こういうのって、手分けして探しません? もしもいなかったらどうするんですか?」

 三人が一斉に僕を見た。

 その後、三人が顔を見合わせた。

 答えたのは、イケメンのキース・カールトン君。

「外れたことはないが、外れたとしても問題はない。アンノウンは、その特性として人間のいる方へ近付く習性がある、というのは知っている前提だが」

 確かに、転入試験を受けるときに今まで習ったところも試験範囲になるからと勉強した。そこでの知識としてある。

「……う、うん。それは知っているけど……でも、だからって真反対にいたらどうするの? その場合……」

 僕は言いながらハッとした。

 そう。真反対にいた場合、人間に近付くアンノウンは、ベースを目指す。

 つまりは、たった一人きりでいる隊長が襲われるということだ。


 青くなった僕を見て、キース・カールトン君が笑った。

「もしかして隊長の心配をしてくれたのか?」

 なんでそんなに余裕なんだ!?

「だだ、だって、あんな小さな女の子一人で……!」

「小さくても隊長だ。彼女は小さく移動が遅いというデメリットがあるが、だからといって弱いわけではない」

 ……そうなんだ?

 でも、大丈夫かなぁ……。

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