第3話 自己紹介
どうしよう、居心地が悪い。
同じ転入生同士だし、仲良く出来るかなと思ったけど、そういう雰囲気でもないみたい。
よその学園の情報をもらえたらなんて考えてみたけれど、ぜんぜん甘い考えだった。
僕は上目遣いでチラチラとみんなを見ながらどうしようかと思っていたら、チャイムが鳴ってアッシュ・ウェスタンス教官が入ってきた。
「よし、全員集まっているか」
アッシュ・ウェスタンス教官は僕にまた笑顔を向けた。
「小隊には各教官が就く。教官によっては複数小隊のめんどうをみていたりするけど、俺はこの小隊だけ。とはいえ、基本は口を出さないんだよね。何かあったときの責任や教官同士の話し合い、あとはサボってないかの見張り程度だから。よろしく」
え、そんな感じなんだ?
僕がポカーンとしていると、チッ、という舌打ちが聞こえてきた。
え、と思って恐る恐るそちらを見ると、ガラの悪い男子生徒が僕を見て人相が悪くなってる〜! なんで!?
その男子はくすんだ金髪で、しかもサイドを刈りあげて真ん中を伸ばして片側にたらしているという、独特の髪型なんだ。しかも目つきが鋭い。エリアにいそうな雰囲気だ。
背が高くて美人の女子生徒が僕の反応を見て「リバー!」とたしなめるように呼ぶと、ガラの悪い男子は再度舌打ちして「……わかってるよ」と言った。
え? 何をわかってるんだろう?
戸惑っていると、小さな女の子が僕の前に立った。
「シャム・シェパード君だったかな。私はこのチーム、小隊名【ナンバー99】の隊長をしているクロウ・レッドフラワーだ。よろしく頼む」
そう言って右手を差し出してきたので、僕はズボンの尻で手をこすったあと、手を握った。
「よよ、よろしくお願いしますっ!」
声が上擦ってしまった。
正直、すごく驚いたんだ。だって、こんなに小さい女の子が隊長って名乗ったんだよ? 僕は男子としては身長が低いほうだけど、その僕の肩より下に頭のてっぺんがある子なんだもん。
しかも、近くで見てもめちゃくちゃ無表情だ。本当にお人形みたいだな。
そのお人形みたいなクロウ・レッドフラワーさんは、僕をじっと見つめながら言った。
「なかなかの手練れと見た。君の活躍を期待する」
え!? 何がなんでどうして!?
いきなりそんなことを言われてしまったのでめちゃくちゃ戸惑ってるんだけど、クロウ・レッドフラワーさんはまるで気にせず他の隊員を紹介し始めたよ。
そしてクロウ・レッドフラワーさんに全員と握手させられた。
にこやかな感じの良い美人がジェシカ・エメラルドさん。
礼儀正しくてすごいイケメンがキース・カールトン君。
ガラの悪い男子がリバー・グリフィン君。あ、ガラだけじゃなく感じも悪い。
でも、ジェシカ・エメラルドさんには頭が上がらないようで、態度が悪いと彼女に後頭部をひっぱたかれている。
そんなリバー・グリフィン君を見て、アッシュ・ウェスタンス教官は苦笑している。
「……無理なモンは無理なんだよ! なんでこのチームにコイツを入れんだよ!」
最終的にリバー・グリフィン君が僕を指差して怒鳴ってきた。
うん、歓迎されていない気はしたけど、やっぱり既にある小隊に途中から入り込むのって難しいみたいだな。
転入生が集まった、というこのチームですらこうなんだもん。
ジェシカ・エメラルドさんは困った顔をして、助けを求めるようにクロウ・レッドフラワーさんを見た。
……隊長らしいけど、彼にかかったら一捻りされそうな彼女がどうにか出来るの?
と、僕が考えていたら、クロウ・レッドフラワーさんはリバー・グリフィン君をじっと見つめ始めた。
すると、途端にリバー・グリフィン君がソワソワし始めたのだ!
……まぁ、気持ちはわかるけど。
彼女、人形めいているから見つめられると落ち着かないんだよね。
しばらくクロウ・レッドフラワーさんが見つめていると、リバー・グリフィン君は観念したように慌てて言った。
「わーった。わーったから! 態度を改めっから!」
クロウ・レッドフラワーさんは、落ち着いた声でリバー・グリフィン君に返す。
「どうしても無理ならば、それなりの対策を考えてあるが」
「わーったから! マジで! 気をつけっから!」
リバー・グリフィン君はその言葉を聞いてますます慌てて、縮こまって言っている。
…………このチームって、女性陣の力のほうが強いんだ?
男性陣、どちらも背が高くて強そうなのに、尻に敷かれている感じ。
「話がまとまったところで」
とアッシュ・ウェスタンス教官が朗らかに言った。
「今日は顔合わせと、アンノウン討伐を想定したVR訓練。仲良くやってね」
また、アッシュ・ウェスタンス教官が笑顔で言った。
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