山岳girl
さやか
第1話
日本の吾妻連峰の雪山で一人の若い女性が立ち往生して身動きがとれずにいる。
彼女は環恵里沙。
神戸市内の高校に通う女子高生で休日はアルバイトで貯めた貯金で趣味の登山を楽しんでいた。
一時期山ガールとかいう単語が流行り、恵里沙もまた慣れない登山に一人で何度も山に行っては少々過剰になっている。
スマホも圏外で近くに誰もいない。
正直いって自分をなめていた。
「君、大丈夫か?」
そこに重装備の小太りの初老男性が現れる。
「足を挫いてしまって身動きがとれないのです」
大木優文は神戸市で喫茶店を営んでいる。
「一人かい?肩を貸そう」
大木は恵里沙を掴み、肩に腕を回す。
「あ、ありがとうござます」
「女一人で登るとは智恵子抄の安達太良山もトレーニングせんと登れんし、天皇さんも百名山登山諦めたみたいだからなぁ」
「私、山を登るのが好きなんです」
「今時珍しいのぅ」
二人は山を下山し、麓に降り立つ。
「ありがとうございました」
「いや、命があっただけでも良かったじゃないか?」
彼はそう言って去っていく。
恵里沙はその後ろ姿が眩しく映り、その帰りの電車の中。
恵里沙は嬉しそうに友人の由紀子とLINE電話していた。
「今日さ、イケメンのおじ様に出会えたよ!」
この気持ちは同級生でイケメンサッカー部に所属する憧れの佐久間先輩に片想いして以来だ。
翌日の学校の休み時間。
恵里沙は登山雑誌を読んでいると由紀子と結衣がやって来る。
「登山バカ」
「ねぇねぇ、今度の休みは3人でこの山に登りに行かない?」
「却下。私らは都会人間だからアンタみたいな自然人間の趣味を押し付けないで頂戴」
「ただ……登山グッズでお金がピンチなのっ!高収入なバイトを紹介してっ!」
由紀子と結衣は呆れて言葉が出ない。
「そうだっ!美少女アルバイトってのを見たことあった」
「美少女じゃねぇし、どっちかいうと可愛い系だし」
「てゆうか、女性の登山って怖くないの?」
「別に……そりゃあ誰か一緒に登ってくれるなら安心だけどね」
恵里沙はチラッと由紀子と結衣を見る。
二人は首を横に振る。
彼女が何故そこまで登山に思いを馳せるのには亡き父の影響があった。
山々の間を颯爽と駆け抜ける父は、まるで風のように自由な存在だった。
父もまた、幼い頃から山に親しんで育ち、自然と一体となっていた。
山々の美しさと厳しさを知り尽くしていた。
山々の中で自分自身を見つけた。
登山中に感じる孤独や喜び、そして自然との一体感。
それらは父にとって、日常の中で感じることのできない貴重な体験だった。
山頂に立った時の感動は、彼にとって至福の瞬間だった。
彼の登山のパートナーは、愛用の登山靴と頼りになる登山用具たち。
恵里沙もまた父の登山道具たちを大切にし、山々を駆け巡るたびに、それらとの絆が深まっていくのを感じていた。
登山は単なる趣味ではなく、生きる喜びそのものだった。
登山を通じて自分の限界に挑戦し、それを超えていくことを学んだ。
山々の中での苦難や困難は、自分にとっての成長の機会であり、また自身と向き合うための訓練だった。
その経験を通じて、自分の内面に眠る強さや勇気を発見していった。
登山への情熱は、父の周りの人々にも感染し始めていた。
その魅力的な笑顔と、山々に対する深い愛情は、多くの人々の心を打ち、自然と登山仲間や支援者たちが集まっていた。
登山を通じて自分自身を見つけ、成長し、多くの人々との絆を築いていった。
山々の中で輝く姿は、まるで自然そのものの一部として輝いているかのようだった。
そして、父はいつも新たな山々への挑戦を楽しみにしていた。
山岳girl さやか @syokomaka09
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