第31話 怒り狂った魔王に壁に叩きつけられました

「小娘、よく来たな、待っていたぞ」

その物体のどこから声を出しているのかわからないけれど、おどろおどろしい声が洞窟中に響いた。

そのグニャグニャ動くその物体はとても不気味だった。

と言うか悪意が駄々洩れで、それがすべてこちらに向いていたのだ。


これはやばい。私はすぐに回れ右して帰りたかった。


しかし後ろには同じような顔をした伯爵がいるのだ。


そう簡単に通してはくれないだろう。そして、伯爵領の騎士達も。


その後ろにはメラニー達もいる。


私一人が逃げるわけにはいかなかった。


でも、何でこんな化け物がこの坑道にいるのだ? 


こんな化け物に対抗するにはエクちゃんしかない。


「エクちゃん!」

私は大きな声でエクちゃんを呼んだのだ。


でも、私の声が行動に響いただけだった。

あれ? 遠すぎたか?

エクちゃんはこの前みたいに現れなかった。


「無駄じゃ、小娘。ここには余の結界が張ってある。何を呼んでもすぐに来んわ」

私は化け物がそう言って笑うのが感じられた。


ゾクリと背中に虫唾が走った。


気持ち悪い!


毛虫を見た気分だった。いや、それは毛虫に失礼だ。何しろ醜い毛虫は羽化したらきれいな蝶になって世にはばたくのだ。

それに比べるとこいつは孵化したらもっと醜い化け物になるのは確実だった。


「ふふふ、貴様の両親にこんな姿に変えられてから十年間、この時を待っていたのだ」


ええええ! また、お父様とお母さまのせいなの? 


いい加減にしてほしいんだけど。


こいつも、恨み晴らすなら、その子供ではなくて、両親に晴らせよ。

私は思わず舌打ちしたくなった。


「ふふふ、恨みは貴様の両親にも晴らしてやるぞ。貴様の体を取り込んだ後にな」

化け物は私の心の声を読んだように言った。


「お前なの? 攫われた女の人たちに酷い事をしたのは」

私は思わず聞いていた。


「ふふふ、そうだ。そいつらは余が取り込んでやったのだ」

「お前が食べたの?」

「そうだ。余の復活の生贄になったのだ。この魔王様のな」

この化け物は魔王だと自ら名乗ったのだ。


その瞬間、坑道の中に戦慄が走った。

「ま、魔王だと!」

「嘘?」

「そんな……」

「もう終わりだ!」

学長なんて今にも泡を吹いて倒れてしまいそうな顔しているんだけど……

全員恐怖に顔が引きつっていた。


「そうだ。もっと怖がるがよい。余が復活した暁にはこの世が余の存在に恐怖して震えるのだ。全ての者が余の前にひれ伏すのだ、

はははは!

ははは、

はは、

は?」

豪快に笑っていた魔王が私を見て笑うのをやめた。


私はその魔王を屑でも見る様に見下していたのだ。


「き、貴様、何だ、その目は! 何故余を前にして震えて許しを請わん」

魔王は怒り狂ってくれた。


「なんだ、その人を食ったような笑みを浮かべる態度は!」

「だって、お父様とお母さまから子供の頃から散々聞かされているんだもの。口先魔王を退治したお話を」

私は話しだした。


「な、なんじゃ、その口先魔王とは」

「散々威張り散らして、大きな口をあいて叫んでいたくせに、お父様とお母さまの前では何もできずに、お父様とお母さまにサンドバッグにされたんでしょ」

私は淡々と話したのだ。両親から自慢げに散々話されたお話を。


「な、何だと、小娘……」

「必死に泣き叫んで許しを乞うたんでしょ」

「そんな事は……」

「お母さまが『あまりにも可哀想になって、逃げだすのを見逃してやったわ』って言っていたわ」

私が言った瞬間、化け物の怒りが沸点を通り越したのだろう。

赤黒い塊が急に巨大化したのだ。

「貴様。愚かな貴様らの両親が慢心した隙に逃げ出してやったのだ。決してアイツラが見逃してくれたのではないわ」

そう叫ぶと、魔王は一気に私に襲い掛かって来たのだ。


赤黒い塊ごと私に襲い掛かって来た。


私は慌てて障壁を出して防ぐ。


しかし、さすがに魔王の力はどの魔物よりも強かった。


障壁が木っ端微塵に砕かれて私はショックの余り弾き飛ばされて壁に叩きつけられていたのだ。


凄まじい激痛が体を走り、私は息も出来なかったのだ。


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