2022年に書いた手記の書き下ろし
鱈場蟹 蠢徊
第1話
ああ、不自由だなぁ。つらい世の中だ。翼が欲しい。
自由になりたい。
僕は本来こんなところにいてはならないはずの人間だ。
僕は、良くも悪くも、普通の人生を送る能力のない、生まれつきの廃人となりし候。
とにかく僕は空気になるのが一番良からう。
自分の具体的物質的要素を捨てて抽象を強め、
誰にも見えないが存在することは確かな「空気」と化して、そこら中を彷徨い歩く。
目的?目的なんてない。自然なる意志と流れに任せる。
ただの空気。
いつ消えるかわからない。
でも、とにかく、消えるまで全力で歩き続ける。
意味もなく。それが楽しい。それとも、その楽しさが意味なのやも知れぬ。
まだ分からない。
僕は、夢の中で生きる儚い浮浪人。
それでいい。それがいい。
それだと、普通以上に、激しい寂しさもある。そして激しい幸せもある。
でも、ずっと楽しさを追求できるこの生き方こそが、僕に一番似合っているだろう。
一瞬間一瞬間の世界という宝石を掬い上げ、それらを永遠に、実直に、自分が死んだ後まで自分の手に大切に握り続ける。
その、細切れだが連続的な超多数の世界が、まだ見ない別の世界に、そして、別の自分に、光と共鳴をもたらすことを信じて。
それらは、いつの間にか、自分の掌の中で、混じり合い、繋がり合い、巨大な結晶という芸術作品を育ちゆくはずだ。
今を生きる。同時に未来を生きる。
そして、醜い世界から離れて、理想の夢の世界に向かう。
理想が現実に存在することを信じて。
今と未来。理想と現実。
イコールではないが、一方がもう一方を包括し合ったり、し合わなかったり。
そういえば、もう一つ。生と死も同じ関係。
あぁ、幸せとはどこから来るんだろう。自分?外界?
それがわからないからとにかく歩く。新規と珍奇を求めて。
一人。独り。孤り。
それはどこか寂しい。この広い世界に一人取り残され。
でも、誠実。一対一で世界に立ち向かうのだから。一つの世界と一人の人間。
それに、僕みたいな曲者かつ廃人、についてくるような御仁はおらんだろう。
一人で光を探す。あちこち動きうる光を探す。
一人は確かに孤りだが、私にとってのそれは、火取りの意味も持つんだ。
だから、後ろ向きな意味だけではないのだ。前向きな一人。
何かを得るとは、何かを犠牲にすること。
それは、自然の摂理。
僕は、自然に、運命に、身体の全てを委ねて、ゆくりげに待とう。
それが、私にとっての自由であり、理想であるから。
まだ自分の人生は始まっていない。それはきっと爆発とともに始まる、一人になって初めて。
僕は、将来、一人になったら、静かに隠棲する。それが自明なる隠棲か、抽象的意味における隠棲かは時によるだろうが、隠棲することは間違いない。
静かにとは言ったが、それは、同時に、刺激的で激しい。爆発的で純粋な好奇心のもとで。
僕は、あまりにこの世の中で生きるのに向いていなさ過ぎるのだ。
なぜなら、具体が嫌いだ、便利が嫌いだ、利益が嫌いだ、物質が嫌いだ、競争が嫌いだ、そして、束縛が嫌いだから。
だから、僕は、将来、人間社会を離れて、自然の中で自由にワイルドに生きる。
そして、いつの間にか、僕は消えている。点滅的。空気的。
でも、僕は、自分が人間であるという事実を変えることはできない。
それゆえに、僕は、人間が嫌いだけど好きだ。
だから、僕は、五次元目の世界から密かに手を伸ばし、その世界を水で洗いたいというのだ。漂白剤をかけるのではない。水という自然さ、純粋さで醜悪を浄化したい。
醜悪を一枚剥がせば、必ずそこには自然な動きがあるはず。
そう信じている。
もしそうでなかったとしたら、その途端、私にはここにいる理由はなくなる。
完全に自然の住民となるか、それとも、それでもなお、自分の人間性という板挟みに苦しめられたなら、この世界から消えるといたそう。
でも、僕には、醜悪の裏には自然がある筈だという確信をどこかに持っている。
醜と純とは表裏一体。
その事実が、僕の心情を、上から下まで激しく突き動かして、大いに弄ぶのだろう。
霧の中の夢があると信じている。きっとそうだ。
だから生きる。それはいかにも特殊だろうが。 とにかく、僕は生きる。
僕は、生の中で死にたくはない。せめて死の中ででも生きたい。
そして、ついでに、周りの死を生に変えてご覧ぜよう。
2022年に書いた手記の書き下ろし 鱈場蟹 蠢徊 @Urotsuki_mushi
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