第17話 もう会いたくなかったでくわ

 アレク様の料理の一件以降、私の仕事は少しずつ変化し始めました。地道なメイドの仕事から徐々に重要な役割を任されるようになり、ナナリーさんと共にアレク様の身の回りのお世話をするようになりました。屋敷に来訪されるお客様の対応も私の仕事に加わり、多忙ではありましたが、新しい経験に心躍らせていました。ナナリーさんの助けもあり、私は日々成長しているのを感じていました。


 そしてある日、新たなお客様を出迎えるために玄関へと向かいました。いつものように落ち着いて振る舞おうとしたその時、私の名前が呼ばれ、私は思わず足を止めて瞳を見開きました。そこには元婚約者が立っていたのです。そして驚くべきことに、彼はアメリア嬢ではなく、別の女性を連れていました。


「エリアンナ……」


 彼がもう一度私の名前を呼びました。その声に、私は過去の記憶と感情が一気に溢れ出るのを感じました。


「どうしてここに? アメリア嬢は?」


 私は言葉に詰まりながら尋ねました。彼の隣にいる女性は、緊張した様子で立っており、彼は複雑な表情を隠しきれていませんでした。


 彼は深いため息をついてから答えました。


「アメリアとは……もう終わった、これは新しい婚約者、リディアだ」


 その言葉を聞いた瞬間、私は心の中で何かが崩れるのを感じましたが、メイドとしての立場を保ちながら、彼とその新しい婚約者を屋敷内に案内しました。歩みながら、私は自分の心の整理をつけ、アレク様への忠誠と、自分自身の感情とを丁寧に分けて考える必要があると感じていました。


 アレク様の部屋への道のりは、私にとって長く、静かで、重い沈黙に包まれたものでした。彼らの突然の登場に内心では混乱していたものの、私は職務を全うするため、一歩一歩前に進みました。


 リディアさんが静寂を破って話しかけてきたとき、彼女の声は明るく、何かの軽さを感じさせました。


「そういえば、自己紹介がまだでしたわね! 私はリディア、よろしくお願いします」彼女は微笑みました。


 彼女の姿は確かに可憐で、その可愛らしさは一目見ただけで心を引きつけるものがありました。ミニスカートから伸びる彼女の脚に、つい目がいってしまうほどでした。


 しかし、彼女の次の言葉は私の心に冷たく突き刺さりました。


「話は聞いていますよ! あなた、この人にフラれたんでしょ?」


 リディアさんの言葉に、私は一瞬で言葉を失い、硬直してしまいました。


 この状況でどう反応すべきか、一瞬頭が真っ白になりました。でも私は、メイドとしての立場を保ちながら、傷ついたプライドを抱えつつも礼儀正しく応じることを選びました。


「はい、そうですね……しかし、過去のことはもう……」


 声を震わせながら言葉を続けました。


「今はアレク様のメイドとして最善を尽くしております……それが私のすべてです! リディアさんには、幸せな未来があることを心から願っています」


 微笑みを浮かべて対応しました。


 彼女の鋭い言葉に心は乱れましたが、それを顔に出さず、私は自らの役割に集中することを決心しました。そして、この出会いが私の成長の一部であり、私が前に進むための試練だと受け入れたのでした。

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