第87話 彩音の思惑
「ふむ、これでいい練習が出来そうだね」
「彩音さん、ダンス練習をするなら一言言ってください。そしたらななちゃんに練習着を持ってくるように言ったのに。言葉が足りませんよ」
「ごめんごめん。でもこれぐらい多めに見てよ。僕だって神倉さんがいつ事務所に来るかわからなかったんだから、これぐらい強引に物事を運んだっていいだろう」
「だからって今日はななちゃんの復帰配信の日ですよ。こんな大事な日に余計な負荷を与えなくてもいいじゃないですか」
「何を言ってるんだい君は? むしろこんな日だからやるんだろう?」
「どういう意味ですか?」
「今日の復帰配信を前にして、神倉さんの頭は不安でいっぱいのはずだ。だからこの空き時間にダンスレッスンをすれば、振りを覚えることに集中して余計なことを考える暇がないから、神倉さんも少しは気がまぎれるんじゃないか?」
「確かにそれは一理あると思います」
「なんだか歯切れの悪い返答だね。もしかして君は配信時間になるまで、神倉さんのことを独り占めしたかったのかな?」
「なっ、何を言ってるんですか!? そんなことあるわけないですよ!?」
「怪しいな。琴音さんの話だと、配信前の事前打ち合わせは17時にすると言っていた。それなのにも関わらずこんなに朝早くから神倉さんを君の家に呼ぶなんて、2人は一体ここで何をするつもりだったのかな?」
「それはもちろんカードゲームで対戦する予定ですよ!? それと夏から始まる最新アニメを一緒に見る約束をしてました」
「ほぅ。健康な男女が部屋でカードゲームね‥‥‥」
「何かおかしい所はありますか?」
「おかしくはないよ。きっとそのカードゲームは楽しいんだろうな」
「意味深な事ばかり言いますが、彩音さんはどんな想像をしているんですか?」
「僕が想像しているのは普通のカード対戦だよ。この部屋で行われる闇のゲームで神倉さんが負けたら、斗真君の封印されしエクスカリバーを神倉さんの秘部に挿‥‥‥」
「ストップストップ!? 日中にそれ以上色々言うのは色々とまずいのでやめてください!?」
「やっぱり君も神倉さんとそういうことをしようとしていたんじゃないか。このムッツリスケベ」
「彩音さんがそういう事を言うから悪いんでしょ!! 僕はななちゃんと健全に遊ぼうとしていただけですから、変な勘違いしないでください!?」
彩音さんはなんてことを言いだすんだよ!?
今の発言のせいで、この前ななちゃんの家に行った時の事がフラッシュバックされたじゃないか!?
「(それにさっきから心臓がバクバク鳴っていて止まらない)」
このままじゃななちゃんが戻って来た時に何を言われるかわからない。
僕のことを見てニヤついている彩音さんのことは放っておいて、今はこの火照った体を冷ますことに全神経を集中させよう。
「とりあえず一旦落ち着こう。まずは大きく息を吸って深呼吸を‥‥‥」
「着替えが終わりました! ‥‥‥ってどうしたの、斗真君? そんなに顔を赤くして?」
「なっ、何でもないよ!? ななちゃんは気にしないで!?」
ななちゃんは不思議そうに首を傾げているが、キッチンで椅子に座っている彩音さんはお腹を抱えて笑っている。
さっきまで声を殺して笑っていたが、どうやらそれが抑えられないようだ。
「(この人、絶対に僕の反応を見て楽しんでいるな)」
ずっと僕とななちゃんを交互に見てニヤニヤしているし、僕のことをからかっているとしか思えない。
「(もしかしてダンスレッスンをするというのは建前で、本当は僕をからかいにきたんじゃないか?)」
彩音さんの反応を見ているとどうしてもそう思ってしまう。
本人は僕達のことを交互に見てニヤニヤと笑いながら、動画を見る準備をしていた。
「さてと。神倉さんの着替えも終わったことだし、早速動画を見ようか」
「はい!」
「そしたら斗真君と神倉さんはこっちに来て。3人で一緒に振り付け動画を見よう!」
釈然とはしないが、今は彩音さんが作ったという振り付け動画をみよう。
周年ライブまで時間がないし、彩音さんの好意を無駄にしたくない。
僕は余計な雑念を払って彩音さんの持ってきたノートPCの前に座った。
「それじゃあ動画を再生するね。最初は通しで見てもらいたいから、振りの部分でわからない所があればこの曲が終わった後に質問して」
「わかりました」
「それじゃあ再生させるよ。スタート!」
それから僕達は彩音さんが作ったという周年ライブ用の振り付け動画を見た。
体感として4分弱の間、僕とななちゃんはその動画を食い入るように見ていた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の8時に投稿しますので、よろしくお願いします。
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