第125話 明るい未来(神宮司琴音視点)
《神宮寺琴音視点》
周年ライブ前日、私は事務所の中で明日のライブの準備をしていた。
菜々香ちゃんは明日のライブに向けて今日は事務所に泊ると言っていたので、斗真の部屋にいると踏んでいる。
「斗真の隣の部屋の鍵を借りにきたけど、あれは絶対フェイクよね」
本人達は別々の部屋で寝ていると言っているが、そんな嘘なんてこっちには丸わかりだ。
慌てふためく2人の様子をみるに斗真はまだ菜々香ちゃんに手を出していないと思うけど、それも時間の問題のように思えた。
「琴音さん。お疲れ様です」
「お疲れ様、彩音。明日が周年ライブの本番だけど、菜々香ちゃんは振りを覚えられた?」
「もちろん! それはバッチリ出来てるよ!」
「それならよかったわ」
私も彩音に菜々香ちゃんが躍る予定の振り付けを映像で見させてもらったが、事務所に入ったばかりの素人にやらせるのは少し酷なように思えた。
それでも彩音が力強く大丈夫と何度もいうから任せたが、どうやら私の心配は杞憂に終わったみたいだ。
「それにしても琴音さんはダイヤの原石を見つけるのが上手いね。斗真君にしろ神倉さんにしろ、このまま成長していけば近い将来ものすごい人気が出ると思うよ」
「そう。ただ彩音、貴方は1つだけ思い違いをしてるわ」
「思い違い?」
「そうよ。貴方の言う通り斗真を見出したのは私だけど、菜々香ちゃんを見つけてきたのは斗真よ。あの子に関して私は何もしてないわ」
「でも神倉さんを事務所に所属するのを決めたのは琴音さんでしょ?」
「確かにそうだけど、菜々香ちゃんのことに関しては斗真にお願いされたから決めたのよ。今回ばかりは私の判断じゃないわ」
神倉ナナがうちの事務所に所属したのは私も想定してなかったイレギュラーだ。
彼女は確かに逸材だが、私と接点なんて殆どない。
斗真がいなければ彼女がうちの事務所に入ることはなかった。
「そうなんだ。そしたら斗真君に感謝しないといけないね」
「そうね。でも彼女のポテンシャルなら、例えうちの事務所に入らなくてもどこかの事務所と契約していたに違いないわ」
それこそどこかの大手事務所にスカウトされて、そのまま転生して別名義でデビューしていたに違いない。
そのぐらいのポテンシャルが菜々香ちゃんにはある。
彼女をうちの事務所に入れられたのは奇跡といってもいい。そのぐらい私は運がよかったと思っている。
「斗真君の話をしていて思い出したんだけど、あの2人はいつ付き合うんだろう?」
「わからないわ。ただあの2人の様子を見るに時間の問題じゃない?」
「それは僕も思ってるよ。でも付き合うのはいいとして、同棲はさすがにまだ早いんじゃないかな?」
「あの2人が言うには別々の部屋で寝泊まりをしているみたいだから大丈夫よ。さっき菜々香ちゃんが部屋の鍵を借りに来てたから、たぶん大丈夫でしょう」
「琴音さんは2人の話を信じるの?」
「完全に信じてるわけじゃないわよ。実際の所どうなってるかわからないけど、鍵を借りにきてる以上あの子達の話を信じないわけにはいかないじゃない」
最近よく斗真の部屋で菜々香ちゃんの姿を見かけるので、2人が男女の一線を超えていないか心配はしている。
花火大会の時2人に避妊の事について冗談めかして話したけど、あの話は私が2人の今後の事を心配した注意喚起でもあった。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。斗真は奥手だし、菜々香ちゃんは頭のいい子だから問題ないわ」
「でも神倉さんの親御さんはこの事を知らないんでしょ?」
「こんなことになると思って、そうなる可能性は事前に話してある。たぶん近いうちにあの子も菜々香ちゃんの親御さんに会うと思うわ」
さすがにこれだけお互いの家を行き来してれば、自然と遭遇するだろう。
この前は軽い挨拶だけで終わったが菜々香ちゃんの親御さんも斗真と話したいと言っていたし、そのうち話す機会が訪れると思っている。
「それは楽しみだね。神倉さんの両親が斗真君に会ったら、なんていうだろう?」
「たぶん最初はいい顔をされないかもしれないわね。でも時間を重ねていけば、あの子の良さをわかってもらえると思うわ」
それだけの魅力を斗真は持っている。それは彩音だけでなく、サラや秋乃もあの子に対して心を許してることからもわかる。
「本当に斗真と菜々香ちゃんがうちの事務所に入ってくれてよかったわ」
「僕も2人が入ってくれて嬉しいよ」
「あの2人が事務所に入ってくれたことで、より一層活動の幅が広がると思う」
「本当!?」
「本当よ。これからこの事務所がどうなっていくのか楽しみね」
取りあえず直近の予定でいうと、大勢の有名
今までは秋乃しかいなかったので団体戦に出れなかったが、今回は斗真や菜々香ちゃんがいるので事務所として出れるかもしれない。
「これから年末にかけて、色々と楽しみね」
「うん! 新しい仲間が出来て、僕もウキウキしてるよ」
未来に思いをはせると自然と笑みが漏れてしまう。
今後この事務所がどうなっていくかわからないが、私はみんなのことを見守っていこうと心に誓った。
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