第121話 琴音の気遣い(槙島サラ視点)
《槙島サラ視点》
「彩音、サラ。ちょっとこっちに来なさい」
「「わかりました」わ」
駅に着いた直後、私と彩音は琴音に呼ばれた。
斗真君達に聞かれたくないのか、私達2人の手を引き近くのコンビニ前まで連れて行かれた。
「琴音さん、こんな所に僕とサラを呼び出してどういうつもりですか?」
「そうですわ。もう花火も始まるのにこんな所に呼び出して。秋乃に悪いです」
「色々言いたいことがあるけど、まずは質問をさせて。貴方達は秋乃の事は心配してるのに、何故斗真達のことを心配しないの?」
「だってあの2人は自分達の世界に入ってるから、心配する必要はないでしょ」
「たぶん私達が離れた所にいるのにも気づいてないんじゃないかしら? 今も2人で手を繋ぎながらイチャイチャしてましたわ」
見ているこっちが恥ずかしくなるほど、あの2人の仲がいい。
あれで付き合ってないと言い張る2人のことが私は信じられません。
「駅に着いた後よりも電車内の方が盛り上がってたよ」
「そうなの? 私は秋乃の隣にいたから、斗真と菜々香ちゃんの姿は良く見えなかったわ
「そういえば彩音はあの2人の側にいましたわね」
「そうだよ。だからあの2人の姿が良く見えたんだ」
「一体あの2人は電車内で何をしてたの?」
「満員電車に乗っていることを免罪符にして、斗真君が神倉さんの壁になって彼女が人の波にのまれないように守っていたんだよ」
「あ~~~カップルが満員電車でよくするやつね」
「そうだよ! しかも2人で楽しそうに話してて、見ているこっちが胃もたれをした」
「私も2人の様子を見てましたけど、あの時のナナさんは完全にメスの顔をしてましたわ」
「斗真君も平然としているように見えて絶対緊張してたよ。あれだけの人前でイチャついといて、付き合ってないといえるよね」
「本当ですわ。早くくっつけばいいのに」
あの2人はずっと付き合ってないと公言してるけど、付き合うまで時間の問題な気がします。
それこそあと一押し何かがあれば、坂道を転げ落ちるように関係が進展するに違いありません。
「なので琴音、あの2人のことが心配なので話があるなら手短にお願いします」
「僕もサラと同意見。目を放したら何をするかわからないから、用があるなら早くして」
「わかったわ。実は2人に渡したい物があるのよ」
「僕達に渡したい物?」
「そうよ。これを2人に渡したかったの」
琴音が私達にくれた2枚のチケット。
そのチケットには花火大会を見る男女の写真が描かれていた。
「このチケットは何ですの?」
「この花火大会の有料席のチケットよ。丁度2枚あるから、2人で行ってきなさい」
「えっ!? こんなものをどこで手に入れたんですか!?」
「私の知り合いからもらったのよ。打ち上げ花火を特等席で見れるらしいから、2人で見に行ってきなさい」
「琴音の好意は嬉しいですけど、今日はみんなで来てるので受け取れません」
「そうだよ。個人行動は斗真君達に悪い」
「元はといえば、斗真だって彩音とサラの為にこのイベントを企画してくれたんだから大丈夫よ」
「えっ!? そうなんですか?」
知らなかった。そんな裏事情があるなんて、私初めて知りました。
私と同じ気持ちなのかと思って彩音の顔を見ると、彼女はロボットのように固まっているではありませんか。
その表情を見て、私は確信しました。
「(あの表情から察するに、彩音は絶対にこの計画を知っていましたわ)」
彩音はポーカーフェースのように見えて、考えている事が顔に出て面白い。
ただ今回の件については、なんだか私だけ仲間外れにされていたみたいで、少しだけ不快でした。
「彩音は斗真君達の計画を知っていたんですね?」
「なっ、ナンノコトカワカラナイナ」
彩音って本当に嘘をつくのが下手な人ですわ。
よく彩音が秋乃にドッキリをかけられている理由がわかる気がします。
「私の話はこれだけよ。こっちはこっちで楽しんでくるから、彩音達は彩音達で楽しんで来なさい」
「う~~~ん、でも‥‥‥」
「彩音、琴音がここまで言うんですから、ここはご厚意に甘えましょう」
「サラがそう言うなら‥‥‥」
「それでいいのよ、それで。そしたらこのチケットはサラに渡すわね」
優柔不断な彩音の代わりに私がチケットを琴音から受け取る。
それを持って来た巾着袋に入れ、彩音の手を引っ張った。
「サラ!?」
「琴音、有料席の受付場所はどこにありますの?」
「この駅の反対側に進んだところにあるわよ。その辺に案内板が立ってるはずだから、それにしたがって進めば着くわ」
「ありがとうございます。そしたら行ってきますわ」
「えっ!? サラはいいの!? 僕と一緒で!?」
「当たり前でしょ。琴音達がここまでしてくれたのだから、さすがに断れません」
「確かにその気持ちはわからなくはないけど‥‥‥」
「そしたら早く行きますわよ。急がないと花火大会が始まってしまいます」
それから私と彩音は琴音に見送られ、2人で有料席へと行く。
琴音の言う通り案内板を見つけその通り進むと、有料席の場所にすぐ着いた。
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