第68話 事務所見学

 オムライスを食べた後は皿洗いを済ませ、ななちゃんが勉強道具と一緒に持ってきていた遊戯ダムやポケカのデッキで対戦する。

 元々ななちゃんとはカードゲームで遊ぶ計画を立てており、僕も事前に作っていたデッキを机の上に出し、プレイマットを敷いて2人で遊んでいた。



「勝った! これで5勝4敗、あたしの勝ち越しだね」


「ぐぬぬ‥‥‥このデッキで僕が負けるなんて‥‥‥」



 今までの対戦成績は9戦して4勝5敗。僕達の実力は五分五分だ。

 もう1戦しようとデッキをシャッフルした時、部屋の中にある置き時計が目に入った。



「(もう13時50分か。そろそろ事務所案内の準備をした方がいいな)」



 出来ればもう1戦したいいけど、そんな悠長なことは言っていられない。

 この後はななちゃんに事務所案内をしないといけないので、その準備をする必要があった。



「そろそろ時間だから、事務所の中を案内するよ」


「えっ!? もうそんな時間?」


「うん。予定では14時から事務所の見学だったでしょ。もうすぐ14時になるからそろそろ移動しよう」



 姉さんからは事務所の中を好きなだけ見ていいと言われている。

 なので姉さんが持っているマスターキーを事前に借りていた。



「(ななちゃんを案内する場所は決まってるから、あとは2人で相談しながら行く場所を決めよう)」



 この日の為に全ての部屋の説明が出来るようにしてきたから、どんな質問をされても的確に答えることが出来る。

 ななちゃんを迎える準備は万端なので、早く彼女に事務所を案内したい。



「最初はどの部屋を案内してくれるの?」


「最初は配信部屋かな。配信部屋というよりは、僕みたいにここに住み込んでいる人達の部屋だよ」


「それなら斗真君の部屋を見ればいいんじゃない?」


「僕の部屋は僕の部屋で色々とアレンジしてあるから、あまり参考にならないよ」



 僕の部屋にはななちゃんには見られたくないものが色々とある。

 同じ学校のクラスメイトには知られたくない秘密がこの部屋にはたくさんあるので、隣の空き部屋をななちゃんに案内することにした。



「せっかく斗真君の性癖を知れるチャンスだったのに。残念」


「ななちゃんは僕の何を知ろうとしてるの!?」


「それはもちろん斗真君が普段おかずにしている物の調査を‥‥‥」


「そんな調査はしなくていいよ!?」



 もし僕の性癖がななちゃんにバレたりしたら、引かれてしまうかもしれない。

 ただでさえ自分の部屋を見られるのは恥ずかしいのに、そんな所まで知られてしまっては、お婿に行けなくなってしまう。



「わかった。そしたら斗真君の部屋を漁るのはまたの機会にするね」


「出来ればそういうことは一生しないでほしいんだけど‥‥‥」


「それは駄目!! 斗真君の趣味と嗜好を把握するのはあたしの務めだよ!!」


「ななちゃんは僕のお母さんなの!?」


「お母さんというよりはお姉さん的な立ち位置かな」


「厄介な身内という所は変わらないんだね」



 これ以上話していても埒が明かないので、事務所案内を始めよう。

 僕は玄関の靴を履き、ななちゃんと一緒に隣の空き部屋へと向かう。



「ここが普段僕達が使っている配信部屋だよ」


「間取りは斗真君の部屋と同じなんだね」


「うん。間取りはどの部屋も変わらないよ。で、こっちが防音室」


「防音室も標準装備されてるんだ」


「元々この建物内にある部屋は配信者が住むように設計されてるんだよ」


「そうなんだ。色々な設備が整っているんだね」


「設備が整ってるといっても冷蔵庫とか洗濯機みたいな家電はないよ。だけどベッドは置いてあるから、布団を敷けばすぐ寝られるようにはなってる」


「なるほど。この部屋って本当に仕事部屋なんだね」


「うん。この建物の中にある部屋は全てそうなるように設計されてるらしいよ」



 姉さん曰く『配信者にとって最適な環境』というものを模索した結果、こういう作りになったらしい。

 自分のPCを持ち込めばいつでも配信が出来るという、配信者にとって理想的な環境。この部屋は姉さんの理念が詰め込まれた部屋となっている。



「この防音室っていくら叫んでも大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。壁を激しく叩いたりしない限りは、よっぽどのことがない限り音が貫通しないみたい」


「ものすごく丈夫な作りになってるんだね」



 ななちゃんは興味深そうに配信部屋を見ている。

 防音室が珍しいようで、部屋の隅から隅まで舐めるように見ていた。



「ななちゃん、そろそろ大丈夫?」


「うん! 見たい所は全部見たからいいよ! 次はどこに案内してくれるの?」


「次は1階の事務所を案内するよ。僕に着いてきて」



 靴を履いた僕達は配信部屋から1階へと移動する。

 2階にあるエレベーターに乗り、事務所が併設されている1階へと移動した。



「1階にはどんな部屋があるの?」


「1階は事務所と応接室と会議室、主にこの3つの部屋しかないんだ」


「えっ!? こんなに広い事務所なのに、それだけしか部屋がないの?」


「他に空き部屋はあるけど、姉さんの話だとそこは使ってないみたいなんだよ」


「そうなんだ」


「この会社は実質姉さん1人でやっている会社だから、本人は会議室や応接室も必要ないって言ってたよ」



 姉さん曰くそれらの部屋は殆ど使っていないという。

 お客さんも殆ど来ないし会議をする時は大抵事務所で行うので、それらの部屋は必要ないというのが姉さんの持論である。



「次に紹介する部屋は、普段姉さんが使ってる事務所だよ」


「ここが事務所なんだ」


「どうしたの? 驚いているようだけど、何かあった?」


「事務所っていうともっといっぱい物があるイメージだったけど、思ったより何もない簡素な部屋なんだね」


「うん。事務用の机が2つと書類棚が数個。姉さんが座っている席だって普通の椅子だから、面白い物は特段ないよ」


「こう見るとなんだか地味な部屋だね」


「僕も初めてこの事務所に来た時はななちゃんと同じ感想だったよ」


「斗真君もそう思ったの?」


「うん。芸能事務所ってもっと華やかなイメージだったから、正直拍子抜けしたよ」



 もっと書類とかでごちゃごちゃになっていると思っていたけど、そういうこともなかった。

 これも普段から姉さんが整理整頓を心がけているからだろう。実家にいた時は部屋が汚かったことを考えると、姉さんも成長している事が伺える。



「どうしてこんな簡素な部屋にしたんだろう?」


「1人で仕事をする部屋だからじゃないかな? 姉さんは従業員を増やすつもりがないみたいだから、こういう簡素な部屋でいいみたい」



 普段自分が使う物にあまりこだわらないのが姉さんらしい。

 その代わり配信する環境にはお金をかけているので、配信部屋があんな豪華な作りになったようだ。



「応接室と会議室もあるけど見る?」


「うん! その部屋も見たい!」


「わかった。そしたら案内するよ」



 それから僕はななちゃんに応接室と会議室を案内する。

 この2つもさっきの事務所と同じく簡素な部屋となっており、特段面白みはなかった。



「これで事務所案内は終わり?」


「終わりじゃないよ。ななちゃんには最後に3Dスタジオを見学してもらおうと思ってる」


「この事務所に3Dスタジオなんてあるの!?」


「もちろんあるよ。姉さんがものすごくこだわった施設みたいで、かなりお金が掛かっているみたい」



 一体そのお金がどこから出たかは知らないけど、その建物を建てるために相当な借金をしているに違いない。

 むしろそんな大金をどこで借りたのか僕は知りたい。

 姉さんが実家を出た時、そんな施設を立てるお金なんてなかったはずだ。



「その3Dスタジオってどこにあるの?」


「この事務所を出てすぐ隣にあるよ。僕が案内するからついてきて」



 それから僕はななちゃんと一緒に事務所の近くに併設されている3Dスタジオへと向かった。


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ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の8時に投稿します。


最後になりますが執筆のモチベーションにも繋がりますので、作品のフォローや応援、★レビューをよろしくお願いします。

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