第51話 木を隠すなら森の中(柊菜々香視点)
《柊菜々香視点》
「これって実写配信じゃん!? ネットに顔出しなんてして、この人は大丈夫なの!?」
「美羽ちゃん、この人の声が良く聞こえないから。もっと音量を大きく出来ない?」
「出来るよ! 今音量を調整するから、ちょっと待ってて!?」
美羽ちゃんがスマホの音量を大きくすると、画面上で話す人の声がはっきり聞こえる。
その声を聞いてあたしは驚いた。今YourTubeで配信をしているのは、間違いなく斗真君だ。
「(この聞きなれた声質は間違いない。この配信をしているのは斗真くんだ!)」
初めてコラボしてから毎日のように彼の声を聞いているので、あたしの聞き間違いではない。この声は間違いなくいつもあたしと話している彼の声だ。
『正直この前のことは僕も驚いたんだよ。急にクラスにわけのわからない人が入ってきたと思ったら、クラスメイトにスマホを向けて配信を始めたんだ。本当いい迷惑だよね』
『えっ!? 『あれはTomaの自作自演じゃないの?』 ってそんな事するわけないじゃん!? こっちは中間テストが終わって精魂尽き果ててるんだよ。もし僕がこの作戦を計画をするなら、そんな最悪のタイミングで配信するように頼まないよ』
斗真君はこの配信を見ている大勢のリスナーに向かって流暢に話している。
いつも学校の隅で大人しくしている彼を知っている人からすれば別人のようだ。
「菜々香、このTomaって人知ってる?」
「‥‥‥‥‥うん」
「嘘!? こんな格好いい人、うちのクラスにいた?」
「いるよ‥‥‥美羽ちゃんが知らないだけで、斗真君はちゃんとクラスにいる」
この格好はあたしと2人で遊びに行った時に見せてくれた、あたしだけが知っている斗真君だ。
自分は絶対に配信者にならないと再三言っていたのにも関わらず、彼が
『何々‥‥‥『あの映像に映ってたのは本当に神倉ナナなの?』 それは僕もわからないよ。1度も会ったことがないから』
『『コラボ配信の打ち合わせの時、神倉さんの顔を見なかったの?』 そんなの見るわけないじゃん。あの時はお互い音声通話で話していたから、お互い顔出しはしてないよ』
『でもみんな、よく考えてほしい。自意識過剰かもしれないけど、こんな身近に人気配信者が集う事なんてある? 偶然だとしても出来過ぎだと思わない? それこそ漫画の世界の話だよ』
『『でも、声が神倉ナナによく似てた』 そりゃあ世の中には似ている声質の人なんてごまんといるよ。だからそれだけで神倉ナナと決めつけるのは早いと思う』
『だから今出回ってるあの動画も消した方がいいと思う。盗撮したものを転載してるんだから、訴えられてもおかしくないよ』
斗真君は配信を通じてあたしが神倉ナナじゃないと否定してくれている。
もちろんあからさまに違うとは言っていない。ただあの時配信された動画を削除するように呼びかけているだけだ。
『こんなの僕がいうことじゃ‥‥‥えっ!? 『Tomaが出ている部分は切り抜いていい?』だって? そうだな‥‥‥あれは盗撮動画だからな‥‥‥』
『『Tomaの格好いい所を広めたい!』 そう言われたらしょうがないな。僕が映っている所だけならいいよ』
『ただし他の一般の人の顔や声が入っている物は僕が映っていても駄目だよ。そういう切り抜きや動画は、これから全部通報していくからね』
これは暗にあたしが出ている動画は全部削除していくという宣言だろう。
どうやって通報するかあたしにはわからないけど、斗真君はあの動画で自分が映っている所以外は全て消すつもりでいる。
「菜々香‥‥‥これって‥‥‥‥‥」
「うん‥‥‥木を隠すなら森の中って言うけど、この人は自分自身に注目を集めて、あたしの話題から目を背けさせるつもりなんだよ」
注目を浴びるのは嫌だって言ってたのに。本当に変な人。
あたしの前では目立つことはしたくないと言っていたのに、わざわざ目立つような事ばかりしている。
「(でもこれはあたしの為にやってくれてるんだ)」
そうでなければ、斗真君はこんなことをしないだろう。
昨日の夜配信をせずにこの時間帯に配信をしているのは、大勢の人にこの配信を見てもらう為に違いない。
『えっ!? 『あの姿を見て何だか親近感が持てた」 そう言ってくれると嬉しいな。普段の僕っていつもあんな地味な姿なんだよ。これで僕がいくらFPSが上手くてもモテないと言っていた理由がわかったでしょ』
『『そんなことを言うなら身だしなみを整えろ』 そう言われたって困るよ。朝早く起きて髪のセットをするのは大変だし、出来ればその時間は睡眠に充てたいじゃん』
『『朝の10分って体感だと1時間に感じない?』 ‥‥‥そうだよね! みんなもそう思うよね! 僕は1時間どころか、2時間や3時間にも感じられるよ!』
『『Tomaはズボラだなw』 うん、その通り! 僕がズボラなのは元からだよ。基本面倒な事は後回しにして、あとで地獄を見るタイプ!』
FPSをしながらコメント欄を見て、斗真君は流暢にしゃべっている。
その姿はとても初配信をしているとは思えない。まるで今までずっと配信をしてきた玄人みたいな話し方をしている。
「この人はどこの誰なのかウチにはわからないけど、この人にも後でお礼を言わないとね」
「うん!」
この配信をあたしは絶対に忘れない。
斗真君が自分を犠牲にしてまであたしの事を守ってくれたことに、心の底から感謝をした。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の7時に投稿します。
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