第43話 事件の真相

「なるほどな、そういう事だったのか」


「はい」



 生徒指導室には先程の盗撮犯が連れていかれ、僕は職員室でクラス担任から事情を聞かれていた。

 応接室にいる尾崎君の方には学年主任の先生が事情を聞いているはずだ。

 クラス担任の隣にいる副担任が目まぐるしく動き回っている事から察するに、もしかするとななちゃんや月島さんも別の先生に事情を聞かれているのかもしれない。



「事情は大体わかった。尾崎の話やあの現場にいた人間も同じことを言ってたから、神宮司の話に嘘はないだろう」


「ありがとうございます」


「それとさっき貝塚先生が怒鳴って悪かったな。こっちもどういう状況かわからなかったんだ」



 先生は僕に頭を下げて謝るが、あの状況を見たら先生達が怒るのもしょうがない。

 僕がそう思う理由はあの現場だけを見れば、僕と尾崎君が盗撮犯をいじめているように見えるからだ。

 だから先生が怒る理由もわからなくはない。それよりも今は先生達が僕や尾崎君の話を信じてくれたことに感謝をしていた。



「それじゃあ今日はもう帰っていい」


「はい。ありがとうございます」


「お手柄だったな。神宮司のような生徒を受け持てて、先生は嬉しいぞ」



 これでようやく長かった取り調べが終わる。

 先生からの質問攻めから解放され、僕は無事に職員室を出ることが出来た。



「うわっ!? もうこんな時間か!?」



 窓の外を見ると空は夕暮れに染まっている。

 今日は家に帰ってテスト期間の間にため込んでいたアニメを見ようと思っていたけど、その計画もあの事件のせいで全ておじゃんとなった。

 だけどそんな事よりももっと気にしないといけないことがある。それはあの盗撮犯や盗撮の被害にあったななちゃんの事だ。



「結局あの盗撮犯は何者なんだろう?」


「それは俺にもわからないな」


「尾崎君!? いつの間にいたの!?」


「今さっきだよ。どうやら俺達の無実が証明されたから、教師達が俺達を同時に解放したみたいだな」


「そしたらあの盗撮犯は、まだ先生達から事情を聞かれてるの?」


「たぶんな。でもあの様子を見る限り、あいつはこのまま警察に身柄を渡される可能性が高い」


「何で? 普通だったら親御さんに身柄を引き渡されて、学内で処分を決めるんじゃないの?」


「本当にあいつが学内の生徒だったら、神宮司の言う通りになるだろうな」


「どういう事?」


「これだけ言ってもまだわからないか。今日柊の事を撮影していたあの盗撮犯は学外の人物の可能性が高い」


「えっ!? 僕達の学校の制服を着ていたのに、そんなことがあるの!?」


「ないとは言い切れないだろう。うちの学校の制服は学ランだから簡単に手に入るし、テストが終わる時間を狙って学校に入られたら在校生と判別するのは不可能だ」


「でも今はテスト期間だよ!? 時間割も変則的になってるし、よっぽど学校に詳しくないとこんな事は出来ないはずだ」


「確かに神宮司の言う通りだ。ただこれは例え話だけど、もし今捕まったやつの身内がこの学校に通っていたとしたらどうだ?」


「それが事実だとしたら、確かに身内からテスト期間の事を聞いてる可能性はあるし、制服だって簡単に調達できる。でも、そんな偶然なんて本当にあるの?」


「あったからこそこんな事が起きたんだろう。色々な偶然が重なった結果、今回の事件が起こったんだ」



 尾崎君の話はあくまで推測だが、ところどころ辻褄は合っている。

 だがこれだけの偶然が実際に起こるはずがない。

 そんなことが起こる可能性なんてかなり低いだろう。



「でも、こんな偶然が連続することなんてあるの?」


「普通はない。だけどどんな偶然も重なれば必然となる」


「どういうこと?」


「あの盗撮犯に神倉ナナの正体が柊菜々香だと吹き込んだ奴がいるってことだよ」


「尾崎君、ななちゃんが神倉ナナだって知ってたの!?」


「当たり前だろう。それよりも俺は神宮寺がその事を知っていたことに驚きだ」



 尾崎君が神倉ナナの事を知っていた。だがそれが意外な事だと僕は思わない。

 僕は薄々だけど彼がななちゃんの正体を知っていると思っていた。



「(ななちゃんがVTuberの神倉ナナだということを尾崎君が前もって知っていたと考えれば、今までの言動にも色々と説明がつく)」



 尾崎君がななちゃんの事をビッチだと言っていたのは、彼女がエッチな配信をしていることを知っていたからだろう。

 普段のななちゃんの振る舞いをあいまって、彼女の事をビッチと言っていたに違いない。



「もしかして尾崎君が柊さんの事をビッチだと言っていたのは‥‥‥」


「そうだ。俺が柊菜々香と神倉ナナが同一人物だと知っていたからだ」


「やっぱりそうだったのか」


「やっぱりって事は神宮司も柊がVTuberをしている事を知っていたんだな?」


「うん」



 ここで尾崎君に対して嘘を言ってもしょうがない。

 彼も今までななちゃんの素顔を知ってて何も言わなかったんだしお互い様である。



「なるほどな。これで俺も納得がいった。最近柊が神宮司の事を気にかけてたのは、そういう事だったんだな」


「僕の事はいいよ。それより尾崎君はどこでその情報を知ったの?」


「ゴールデンウイークに開いたオフ会だよ。そこでVTuberの活動をしている人がいて、その人がとある写真を俺に見せてくれたんだ」


「写真?」


「そうだよ。何でも神倉ナナの活動1周年を祝う3Dライブの映像を取っていた時に、みんなで集合写真を撮ったらしい。その写真を俺に見せてくれたんだ」


「あのライブの時の写真か!!」



 ななちゃんの配信アーカイブを見ていた時、3Dライブの予約枠があった。

 その写真はあの時撮られたものに違いない。



「(この前ナナちゃんと話した時もその写真は宝物だといっていたし、間違いないだろう)」



 つまりななちゃんは自分の身内に売られたのだ。

 3Dライブの際に撮った写真を不特定多数の人に見られた結果、今回の事件が起こったと考えた方がいい。



「話を続けるがその写真を見せてもらった時、たまたま柊が映ってたんだ。それでその子から柊が神倉ナナだということを教えてもらったんだよ」


「事情はわかったけど、何でその子はそんな事をしたの?」


「さぁな。たぶん自分がVをしている事や人気VTuberが友達にいるのを自慢したかったんじゃないか?」


「尾崎君は本当にそう思ってる?」


「全く思ってない。むしろあんな奴にまでその話をしていたという事は、十中八九柊を貶めたい気持ちがあったはずだ」


「だよね。そうじゃなければキャスト全員の集合写真なんて、普通は人に見せたりしないと思う」



 VTuberは基本的に顔出しNGでやっている。

 それなのにおいそれと他人に顔写真を見せるなんて行為、普通の人なら絶対にしないだろう。



「そういえば尾崎君はどうしてその事を知ってて、配信のネタにしなかったの?」


「ネタにしなかったというよりも、ネタにしようがなかったという方が正しいな」


「どういうこと?」


「ゴシップネタとしてはかなりいいネタになるとは思うけど、別に神倉ナナが犯罪行為をしたわけではないだろう。それを同接目的で晒してどうする? 悪いが俺はそんなゴシップ配信をするつもりはない」


「尾崎君にも一応信念のようなものがあるんだね」


「一応は余計だ。一応は」



 尾崎君がそのネタを配信しなかった理由はわかった。

 もしかすると柊さんの写真を尾崎君に見せた人は、その事に業を煮やして他の人にその写真を見せたのかもしれない。



「あんなことになって、柊さんは大丈夫かな?」


「大丈夫なわけないだろう。ネットに顔を晒されたんだぞ。普通の人だったら心に傷を負って引きこもりになってもおかしくない」


「だよね。僕が同じような目にあったら、絶対学校に来ないと思う」



 今回の一件でそれぐらいの被害をななちゃんは被った。

 去り際に見たあの様子を見る限り、当分学校には来れないと思う。



「ここであいつの身を案じていてもしょうがない。俺達は家に帰ろう」


「うん」


「大丈夫だ。犯人も捕まったし、俺達に被害が及ぶことはない」



 尾崎君が言ったことはあくまで自分達に被害はないという話だ。

 だが顔を晒されたななちゃんはどうなんだ? 彼女にまで被害が及ばないと尾崎君は断言していない。



「それじゃあ早く家に帰ろう。せっかくだから今日は俺が奢ってやる」


「それは遠慮しておくよ。それに僕と尾崎君の家って正反対じゃん。さすがに一緒には帰れないよ」


「‥‥‥‥‥それもそうだな」


「だから今日はお互い別々に帰ろう。僕は先に帰るから。じゃあね!」


「ちょっ、ちょっと待て!? せめて校門までは一緒に帰ってもいいだろう!?」



 その後僕は教室まで尾崎君と一緒に鞄を取りに行き、校門まで一緒に帰る。

 家に帰ってすぐななちゃんに連絡を入れるが、その日彼女から返信が返ってくることはなかった。


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ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の7時に投稿します。


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