第19話 秘密の約束

 ナナちゃんとのコラボ配信が終わってから1週間が経過した。

 あれから彼女とは頻繁に連絡を取り合う仲になり、今日も一緒に作業通話をする予定となっている。



『お疲れ様、Toma君』


「お疲れ様。今日は何して遊ぶ?」


『あたしは今日も遊戯ダムのアニメを見たい! 昨日はいい所で終わったから、ずっと続きが気になってたんだ』


「わかった。そしたら今画面共有の準備をするね」



 僕はナナちゃんから連絡がきた時だけ一緒に作業通話をしている。基本僕から彼女に連絡を入れることはない。

 その理由は僕が送ったメッセーjジがナナちゃんの配信に載ると大変な事になるので、万に一つの可能性を消すために僕と作業通話をする時は彼女の方から僕に連絡を入れてくれることとなった。



『やっぱり遊戯ダムは面白いよね! 何で城ヶ内君って、あんなに顎が長いんだろう?』


「マリスに負けるまでは普通だったのにね。意識が回復する際に顎を魔改造されたんじゃないかなって説が有力らしいよ」


『それじゃあ城ヶ内君が持ってる切り札の人造人間サイコみたいじゃない! 頭を丸めて眼鏡をかければそっくりかも!』


「そういう描写は漫画では描かれてないけど、ナナちゃんの推察はあながち間違ってないんじゃないかな?」



 もしそういう描写があれば、もっと世間で話題になっていてもおかしくない。

 遊戯ダムは色々ネタも豊富だが、アニメとしても面白いので夢中になってしまう。



『そういえばもうすぐゴールデンウイークだね』


「そういえばもうそんな季節か」


『Toma君はこの連休中どこかに出かけるの?』


「僕はどこにも出かけないよ。ずっと家に引きこもって1人でゲームをしてると思う」


『そうなんだ』


「ナナちゃんこそどこかに行かないの? ゴールデンウイーク中は学校も休みでしょ?」


『あたしも斗真君と一緒でどこにも出かけないよ。お休み中はずっと配信をしてると思う』


「そうなんだ。大変だね」


『みんなが休みの時にこそ配信をしないと。こう見えてあたしもエンターテイナーの端くれだから、頑張らなくちゃ』



 僕が思っていたよりもナナちゃんはプロ意識が高いみたいだ。

 ナナちゃんぐらい稼いでいるならこの大型連休中どこかに旅行へ行くと思っていたけど、それは僕の思い違いだったらしい。



「ナナちゃんはプロ意識が高いんだね」


『ありがとう。そう言ってくるのは嬉しいけど、本当はお母さん達がゴールデンウイーク中も仕事があるから、みんなで旅行に行けないんだ」


「ゴールデンウイークも仕事って、ナナちゃんの両親は何の仕事をしてるの?」


『お母さんは看護師をしていて、お父さんは商社に勤める。お母さんは夜勤で家にいないことが多いし、お父さんも出張が多いから家を空けることが多くて、昔から家に1人でいることが多かったんだ』


「そうなんだ」


『でもそのおかげで誰にも迷惑かけずに配信が出来るし、エッチな事も堂々と話せていいことずくめだよ!』


「僕としては出来ればエッチな話は控えてほしいです」



 こうして2人で話している時は普通なのに、配信になるとあんなにエッチな発言を連発するのだろう。

 エンタメといえばそこまでだけど、それが不思議だった。



『そうだ!』


「どうしたの? そんなに大きな声を出して?」


『お互いゴールデンウイーク中暇なら、2人でどこかに遊びに行かない?』


「えっ!? ナナちゃんと遊びに行くの!?」


『そうだよ。だってお互い住んでいる所は近いはずでしょ?』


「近いといっても、住んでいる地方が同じなだけだよ」


『それでもいいじゃん! あたしはToma君と会う為なら、どこへでも行くよ!』


「う~~~ん」



 姉さんからもあまり親密にならない方がいいと言われてるし、この誘いを断った方がいいことは僕もわかってる。

 でもナナちゃんとはこれだけ趣味が会うのだから、一緒に遊んだら絶対に楽しいはずだ。

 それがいけない事とはわかっていても、僕はどうしても彼女と2人で遊んでみたかった。



『もしかしてそんなにあたしと遊ぶのが嫌だった?』


「嫌じゃないよ。出来ることなら僕もナナちゃんと一緒に遊びたい」


『やった! そしたらゴールデンウイークに2人でどこかへ遊びに行こう!』



 これでナナちゃんとゴールデンウイークに遊びに行くことが決定した。

 だけど僕はナナちゃんに1つだけお願いしないといけないことがある。



「ナナちゃん」


「何?」


「一緒に遊びに行くのはいいんだけど、その代わり1つだけ僕の頼みを聞いてくれない?」


『いいよ! それでToma君の頼みって何?』


「遊びに行く場所なんだけど、そこは僕が決めてもいい?」


『もちろんいいよ! Toma君と遊べるなら、あたしはどこへでも行く!』



 よかった。ナナちゃんがOKしてくれて。これで何があっても、姉さんにある程度言い訳が出来る。



[(ナナちゃんと遊ぶ場所は地元から出来るだけ遠い所を選ぼう。そうすれば相手も僕がどこに住んでいるかわからないはずだ)」



 それなら一緒に遊んでも特段問題にならないと思う。もし姉さんにバレたとしても、街でたまたま会っただけだと言い訳することだって出来る。



『Toma君が場所を選んでくれるってことは、当日はあたしの事をエスコートしてくれるんだよね?』


「うん、そうだよ。ナナちゃんが知らない土地の可能性もあるから、必然的にそうなると思う」


『わかった。そしたら期待してるね! Toma君がどんな所にあたしを連れて行ってくれるのか、今から楽しみだな!』



 これだけ期待されると僕も真剣に行く所を選ばないといけない。

 一応行く場所は決めてあるけど、遊ぶ施設だけは真剣に選ぶことにしよう。



「遊ぶ場所は後でティスコで連絡するね」


『わかった!』


「もうこんな時間だ!? 今日は遅いから、そろそろ寝よう」


『待って』


「えっ!?」


『その‥‥‥出来ればでいいんだけど、寝るまでの間このまま通話をしない?』



 寝るまでの間通話をするということは、属にいう寝落ち通話という奴じゃないか!?

 こんな事をするのは都市伝説だと思っていたけど、本当に実在するようだ。



『やっぱり迷惑だった?』


「全然迷惑じゃないよ!? むしろその相手が僕でいいの?」


『うん‥‥‥‥‥あたしはToma君がいい」



 ナナちゃんにここまで言われたらさすがに断り辛い。

 僕には荷が重い話だけど、友達の頼みを出来るだけ断りたくなかった。



『Toma君はもうお風呂に入った?』


「まだ入ってないよ」


『そしたらお風呂から出たら連絡を頂戴。あたしはベッドの上でToma君の事をずっと待ってるから』


「わかった」



 そう言ってナナちゃんとの通話が切れた。



「神倉ナナと寝落ち通話か」



 約束をしたのはいいものの、ものすごい罪悪感に苛まれている。

 神倉ナナのリスナーを差し置いて、本当にこんなことをしてもいいのか。その事ばかりずっと考えてしまう。



「でもナナちゃんと約束してしまった手前、今更引くに引けない」



 寝るまでの間話すだけなんだ。そこにやましい気持ちなんて何一つない。

 それぐらいならみんな許してくれるだろう。僕はそう思う事にした。



「反省するのは後にして、早くお風呂に入ろう」



 こうしてる間もナナちゃんが僕の事を待ってるので、彼女をあまり長く待たせてはいけない。

 浴室でシャワーを浴びた後急いで部屋へ戻り、ナナちゃんに連絡を入れた。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の8時に投稿します。


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