On the beltway
ぬに
友愛、労働、進歩
2010年2月15日
砂に象られた風が、私たちを載せる北京212の車体を撫でていった。粒がぶつかる音がしばらく続いて、またエンジン音だけの世界に戻っていく。西アフリカの北端に位置する
「
ハンドルを任せている
社会主義市場経済と13億人の人民が中華人民共和国を世界経済の頂へと持ち上げ、北京は冷戦の遺産たる国際的な諜報網を全く異なる用途へと転換させつつある。アメリカ一強の世界の不安定化と、超大国としての中国の実現に向かって本国の外交政策は組み替えられ、そのために徐々に国際的な介入の力の整備を進めていた。こうして支援を受けて、現代の傭兵とも言える多数の
「ようこそ、我が部隊へ」
首都ニアメの近郊だというのに変わり映えのしない光景が広がるなか、ポツンと佇む駐屯地が砂漠の黒点のようだった。軍用トラックの車列を恭しく迎え入れるその司令官は、大きな顔一面に脂汗と大志を浮かべていた。
「大変でしたでしょう。この国はどこもかしこも砂まみれですから」
サコ・バカリ大佐と名乗った司令官は、乳白色の水を粘土のカップに注ぎながら、話を切り出した。穀物をどろどろにしたものらしいよく冷えたそれはほんのり乳酸の味を含んでいて、灼熱に晒されていた私の身体に染み通るような味わいであった。
「この国は独立から50年が経つというのに、いまだ飢餓と貧困が容易に人民を蹂躙している。この地獄は人民の勤労の不足への天誅ではなく、ヨーロッパの新植民地主義の陰謀に過ぎないことはご存知でしょう」
「
事前に伝えられた依頼内容はトゥアレグ族に対する対テロ戦の戦闘支援である。話ぶりからしてサコ大佐の狙いは国家の転覆だ。彼の持つ兵力では平時ならばそんな大掛かりなことはできないが、今は平時ではない。終わりの見えない内紛と独裁政権批判への溢れんばかりの支持はかつてなくこの国を不安定にしているのだ。
「大佐、こちらの把握している依頼内容とあなたの望みは異なるようですが」
「国家の安定のためという点では大して変わらないでしょう。それに、ご支援いただけるのならば、それは新政権樹立の暁に大きな利益をあなた方にもたらすはずです」
サコ大佐の目には屈託の無い未来への希望と自信が浮かんでいる。彼はまったく自分の理想に間違いがないと本気で思っているのだ。フランスのアフリカなんて扇動者に使い古された文句だが、サコ大佐の信念はそうしたペテン師とは一線を画したもののように思えた。そしてその人相は、ひどく懐かしさを感じるものでもあったのだ。
「わかりました。あなた方の理想の実現のために尽力しましょう」
On the beltway ぬに @kuuuuma
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