06.四女(牡牛座)

 虎のタトゥー


 泣き叫ぶほど、狂うほど痛いと聞いていた。

 実際体験してみるとそこまでだった。

 ちょっとなんか「おー、痛い痛い」くらい。

 痛みに強いという自覚はあったし、なんとなく泣きはしないと思っていたが、本当にそこまでだった。

 生きていく上で必ず味わう痛みではないけれども、味わうのなら味わっておきたい痛みで、私はそれを味わえて満足していた。


 じくじくと広がる痛みか、突き刺すような痛みか。

 ネットで痛みについて調べれば調べるほど、私は本当は痛みを感じないんじゃないか、なんて思った。

 でも臍にあけたピアスは痛かったからなんでか分からなかった。

 前世で味わっていたからどの程度か分かっていたのではないか、なんて思った。


 路上で踊ってみた。

 いつものように踊ってみた。

 脇腹のタトゥーを見せながら。

 みんなタトゥーを褒めてくれた。

 踊りながら思った。もしこれを私の生徒が見ていたら、と。


 生徒。生徒な。

 本で殴ってた子。

 成人しているのになんであんなとこに通っているんだろう。

 なんでこの時代にスカートを穿いているんだろう。

 不思議で可愛い私の生徒。

 真似して穿いた中古のスカート。


 鏡でタトゥーを見た。

 この子の為なら辞められると思った。

 全てを投げ出してこのタトゥーと生きていきたいと思った。


 真っ白なキャンバスの女の子。

 私のタトゥーを見て喜んでいた女の子。

 元生徒と私に入った虎のタトゥー。

 貴方は私の虎のタトゥー。

 私は貴方の薔薇のタトゥー。

 背伸びしたわけじゃない。

 自己主張したかったわけでもない。

 ただ表したかった。

 私の中に眠る何かを。

 私の中に生きる激情を。

 虎と共に生きたかった。

 貴方は私の虎のタトゥー。

 私は貴方の薔薇のタトゥー。

 私なら救える。

 私なら助けられる。

 私なら表せる。

 貴方の美しさを。

 貴方本来のかわいさを。

 貴方本来の格好良さを。

 元々生きていた。

 それが具現化しただけ。

 だから痛くなかったんだね。

 ずっといてくれたんだね。

 私だけの虎のタトゥー。


 だいすきだよ。

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