DIVA

01.長女(射手座)

 踊りが好きだった。


 仕事終わり。誰も居ない会社。

 新入りなんだからと押し付けられた仕事をこなして23時。

 女だからと特別扱いはしない、と言いながら、特別私へ厳しくする、腹の底から大嫌いで仕方ない上司の机に土足で踏み上がる。


 五歳の頃からの趣味。

 嫌いな奴の机の上で、大音量で流行りの洋楽を流して、流せる機器がなかったら歌って、それに合わせて何も考えず踊る。


 仕事を始めた理由はダンスがしたかったから。

 ダンス教室へ通うため。ダンスを踊る許可を貰うためだった。

 踊りながら思う。踊るのに誰かの許可なんて必要なのかと。


 最近学んだ新たな技をなんとなくで混ぜて踊る。

 誰に見られていようが見られていなかろうが関係ない。

 どうせなら見て貰いたい、けど、これは私が私を好く為の行為であり手段であり、ひとつの呼吸法だった。でしかなかった。


 ヒールで痛むつま先。

 スカートのせいで開きにくい足。

 踊りながら思う。

 私は、女に産まれてよかったな、と。

 こんな時代だけど、私は、女に産まれて良かったな、と。





 二日後、自分のデスクの上に置かれた封筒に気付いた。

 可愛らしい薄いブルーの封筒。

 妙な勘が働いた私が大急ぎでトイレに駆け込み、その封筒の封を開け、中から恐る恐る便箋を取り出し、みっちりと書かれている、恐らく私へのメッセージを読んでみる。



「一昨日、貴方が部長のデスクで踊っている姿を見ました。

「新入りなのに何をしているんだ」と注意しようとしたけれど、貴方のダンスが、そして、貴方の笑顔が焼き付いて離れません。

あなたの踊りに、貴方の存在に感動しました。

どうか、僕と一度ダンスについてお話ししませんか?

ダンスの話じゃなくても構いません。

どんな理由でも構いません。

一度、貴方と食事するチャンスをください。

連絡を待っています。」



 そんな文章が書かれている。

 便箋を返すと、便箋の裏には小さく電話番号が書かれている。

 私はそれをビリビリに破きゴミ箱に捨てた。


「キモすぎるだろ」

 そう呟いてから個室から出て、同じ会社だけど違う部署に居る親友に『キモいやつから手紙貰った…』とメッセージを送った。

 この子が居なかったら今ごろ泣いてるだろうな。

 男だからって女を見下すような奴が大嫌いだ。

 私がこの世でスカートを穿いているからと言って見下して軽く見るやつが大嫌いだ。

 そう思いながら、鏡に映る、携帯を愛おしそうに見つめていた、世界一美人で、多才で、器用で、その上努力家な女を見つめる。

「おはよ」

 やっぱり、今日もかわいいね。

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