07.Born to strain


「上手く出来るからといって、それがしたいこととは限らない」


 それが僕の座右の銘だった。

 僕にはどうしても苦手なことがあった。

 弟にはできて、僕には出来ないことが。


「……」

 少女の部屋の前。僕たち二人の秘密を共有し合う、僕たちだけの秘密の時間。


「僕は、弟みたいに生きられない」

 少女が大きく息を吸い込む音がした。

「……自分が嫌いで、自分の、本心を、誰にも言ったことがない」

「……」

「誰かに嫌われるのが怖いんだ」


 少女は部屋から出て、踞っている僕にハンカチを手渡してくれた。

 それを受け取って、自分の涙を拭うと、少女は優しく僕の頭を撫でてくれた。


「…僕を嫌いにならないでほしい」

 少女は頷いた。

 劇団の人間から「喉を守るために喋るな」と言われたのだろう。

 少女の細い腕を掴むと、少女は苦しそうに唾を飲み込み、長袖を捲った。


「……いたかったね」

 赤く腫れ上がった手首。ぽつぽつと滲む赤色。

 少女は人差し指を立て、僕の口に当てた。


「わかってる」

 小さな少女の手を僕の手で包み込むと、嬉しそうに、どこか照れ臭そうに頷き、少女の本当の声。低く、ハスキーで、お腹の底に響くような深い声でこう呟いた。


「ありがとう、お兄さん」


 彼女の手首には、僕たちの揃いの傷が。

 それだけが、僕たちを繋ぐ共通点だった。

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