第7話
「……」
意識が朦朧としているけど何故か俺は生きている。その証拠に体中に激痛が走って体が動かなかった。
するとボヤけた視界に剣を持った人の形が映り込み、俺に何か言っているのが分かった。
「君は……力を……意志は……」
え?
若い男の声だった。急に言われた言葉を理解できずに黙っていると今度はハッキリと聞き取れる声が聞こえた。
「君は僕の力を引き継ぐ意志はあるかい?」
力……。
それは俺が今まで一番欲しかった言葉だった。
「ただし引き継いだ時その先には辛い道が待っているよ。君に選択を……安らかな死か地獄の苦痛を伴い生きるかどちらを選ぶ?」
俺はここで終わっていいのか……。
俺は今までの人生を振り返るといつもそこにはアイナの顔が浮かんでいた。
「うう……」
コク、コク
声が出ない……動かない体でも必死に首を縦にすると若い男の悲しそうな声が聞こえた。
「辛い道と分かっていても生きる……か……分かったよ」
俺の体に暖かい感覚が広がっていくと光に包まれいった。意識が遠のいていく……。
「君なら僕の成し得なかった事をきっと叶えてくれると……信じているよ」
どういう意味なのか分からないそんな言葉を薄れゆく意識の中で聞いた。
「……?」
段々と意識が戻り始めた俺の頭に誰かの声がかけられている。
「大丈夫ー?」
先程の若い男ではなくて幼い女の子の声が聞こえ目を開けると可愛らしい10歳もいってないくらいの女の子がしゃがみ込んで屈託のない笑顔で俺の顔を覗き込んでいた。
「君は……」
俺は寝ぼけているような感覚になってて頭が回っていなかったが次第に落ち着きを取り戻すと突如ボスモンスターと戦っていた記憶が蘇った。
「ハッ⁉︎ モ、モンスターは何処だ⁉︎」
慌てふためく俺の両手は武器を探して騒がしく動き回り、目はボスモンスターの存在を探し始めていた。
「あはは! もういないよ!」
俺の慌てようがよほど可笑しかったのか笑いながら幼女がそう答えた。
「ま、まさか⁉︎ 君があのモンスターを倒したっていうのか⁉︎」
心底驚くと思わず大きな声で幼女にそう訊いていた。
「そーだよ!」
嘘だろ……本当にあの強敵をこの子がやったのか?
信じられない話だが、でもその証拠にボスモンスターの姿は無くてそう認めざるを得ない状況だった。
「ありがとう ……あ、そういえばもうひとり男の人がいなかった?」
ひとまずお礼を言うとふとあの若い男がいないのに気付いてニコニコしている幼女に聞いた。
「え〜? 私ひとりだよ?」
幼女は少し首を傾げると何を言ってるんだという目で見られた。
じゃああれは幻覚か夢なのか? う〜ん色々な事が起きすぎて頭が追いつかない。
ん? そういやここってダンジョンの中だよな? それも生きて帰れないくらいの……なんでこんな幼い女の子が……。
俺は次第に冷静になって今の状況を確認すると次々と疑問が湧き出ていた。
さてこの幼女にまず何を聞こうか……。
「私この洞窟に閉じ込められて困ってたの!」
考えこむ俺に幼女は両手の指を交互に組んで祈るポーズをしながらうるうるした目で訴えてきた。
凄く困ってる顔をしてるけどその割に元気な声だなこの子……。
「私外に出たいの! だから一緒に一番下まで行って欲しいの!」
幼女にうるうるした目で見つめられた俺は思わずこくこくと頷くとそれを見た幼女はパァ! と嬉しそうな笑顔を咲かせた。
……な、なんて可愛い笑顔なんだ!
その容姿は可愛いとしか言えなかった。サラサラした髪の毛には水色のリボンをつけて可愛い容姿に合う服を着ていた。ずっと見ていたいと思わせるほど容姿だけではなく仕草や声も俺を惹きつけてやめない。
「あ、ちょっと体がボロボロで動けないんだ。少し待ってくれないか?」
可愛すぎる幼女の笑顔に見惚れてて忘れていたけど体がボロボロで動けないんだった……。
「あれ? 怪我が治ってる……」
驚く事が多すぎて体の状態を気にしていなかったがよく見ると完全に傷が癒えており疲れもない万全の状態に首を傾げた。
そういえばあの人が俺に力を引き継ぐとかなんとか言ってたし、ついでに治してくれたのかな?
よく分からない状況をあの若い男の仕業だと無理矢理自分に納得させると幼女に事情を聞く事にした。
「そういえば君の名前は? 俺はリアンて言うんだ」
幼女は俺の質問に対して首を横に振ると予想外の答えを返してきた。
「私名前忘れちゃったの……リアンが付けて?」
「忘れた? 記憶がないのか……」
俺はどういう経緯でここに来たのか聞きたかったが記憶が無いなら聞いてもしょうがないと諦めてとりあえず名前を考える事にした。
「アリス……なんてどうかな?」
アリスとはこの世界で一番綺麗と言われる有名な花の名前でこの可愛い容姿をした幼女の名前を考えた時、瞬時に頭に浮んでいたものだった。
「私アリス!」
少し暗かった顔がパァッと明るくなり嬉しそうな顔をしているのをみると気に入っているようだ。
「じゃあアリス、これからよろしくな」
「うん!」
俺が手を差し出すとアリスは嬉しそうに小さい手を出してくる。
アリスの小さな手をギュッと握った時、人の温度を感じた。
その温もりがちゃんと生きている事を俺に教えてくれた。
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