第6話 横浜
クリスマスイブに、莉菜と一緒に横浜に来ていた。クリスマスのイリュミネーションはとっても素敵で、寒いけど、道歩く恋人の気持ちは暖かそうだったわ。
木々に取り付けられた電球が、神聖というか、幻想的というか、なんか女性になってみるこの光景は、今までみてきたものとは違う気がした。
そう、星の中に2人だけが浮いているよう。大きな宇宙の中で、2人だけが迷い込みながらも、明るい光で照らされていて、星が正面に誘導しているような。明るい未来が私達にも、この先にあるんじゃないかと思える感じ。
そして、はく息が白くなり、澄みきった空気が心を清らかにしてくれる。私は冬のこの神聖な雰囲気が大好き。穢れがなく、頭もクリアになれる。
でも、私は、こんな体になっちゃった。莉菜のことを思い続けているのが女性だなんて、神聖とか、いえる資格はないわね。
寒い寒いと言ったら、莉菜は手を握って、ポケットに私の手を入れてくれたの。手も温かったけど、私の気持ちも温かくなった。ずっと、この時間が続かないかしら。
莉菜と私は、どのイヤリングが可愛いかとか、幾つもお店を回って、笑顔で過ごした。周りから見ると、姉妹とかに見えていたかもしれないわね。
そして、クリスマスイブだけど、混んでないよねってことで中華街に行って、中華料理レストランでイブを過ごしていた。
「なんか雪降りそうだけど、大丈夫かしら。」
「そうなったら、その時でしょ。今を楽しみましょうよ。」
「そうね。天心セットとか美味しそうじゃない。食べてみる。」
「莉菜さんが食べたいものを食べたいな。天心、美味しそう。」
「そういえば、この前、家まで送ってくれたんだよね。本当に、最近、お酒に弱くなっちゃって、ダメよね。でも、9月から聖奈さんと一緒に、いろんな所に出かけて、本当に気持ちが軽くなったというか、落ち着いてきた。本当に、ありがとう。」
「いえいえ、私も楽しんでますから。これまで、海外とかには行ったけど、日本では住んでる所からあまり出なかったから、この横浜とか、江ノ島とか、外苑前とか行けて、本当に楽しいですよ。」
「なんか、聖奈さんと一緒だと安心できるの。どうしてかな。聖奈さんからみると、こんなおばさんとと思うだろうけど、これからも付き合ってね。」
「もちろんです。もしかしたら、この横浜でも彼との思い出があるとか。」
「よくわかったわね。この中華街で、1年前のクリスマスイブの日のディナーでプロポーズされたの。ちょど、その時も、クリスマスイブなのに中華街でディナーって笑っちゃうでしょ。」
「いえ、いえ。そっちの方が空いててリーズナブルですよ。今更ですけど、彼のどこがよくて、プロポーズを受けたんですか。」
「この人と一緒にいると、楽というか、自然な私でいられるのよね。結婚って、そうじゃないともたないじゃない。これまでも男性とは何人かは付き合ってきたけど、なんとなく、いつも私が背伸びしているようで、疲れちゃっていたの。でも、誠一は、なんでも、ありのままの私でいいよって言ってくれた。もう、そんな人、いないかもしれないわね。」
「とっても、素敵な人だったんですね。でも、私には、わからないけど、まだ莉菜さんの人生は長いんだから、いい人も現れますよ。」
「そうかな。また暗い話になっちゃったわね。ところで、聖奈さんは彼氏とかいないの?」
「私、女子校だから男性と出会う機会もないし、少し、男性が怖いかな。だから、彼はいないんです。」
「男性も、怖い人もいるけど、優しい人もいるわよ。女性だって、同じじゃない。男性とか女性でなくて、その人なのよ。これから、楽しい人生が待っていて、羨ましいわね。」
莉菜は、特にお酒を飲むと暗くなったり、明るくなったり、まだ感情のコントロールが十分にできないみたい。今日も、時々、言葉に詰まって急に下を向いたりしていた。
そん中で、雪がひどく降り始め、関東にしては、あっという間に15cmぐらい積もってしまい、電車も止まってしまったの。
「莉菜さん、雪で電車止まっちゃったって。どうしよう。」
「この辺のホテルで明日まで泊まるしかないわね。みんなが予約していっぱいになる前にホテル、予約しないと。聖奈さんは、親御さんに連絡して、今日は雪で友達と泊まるって連絡しておいて。」
「わかりました。では、ホテルを見つけるの、よろしくお願いします。」
さっきまで暗くなっていた莉菜は、この事態に、急に大人らしくテキパキと動き始めた。こういうこともできるぐらい、気持ちも回復したのは良かったわ。
「ここから5分ぐらいの所にあるクラシカルなホテルが予約できたから、行こう。親御さんもOKだったわよね。」
「もちろんです。行きましょう。」
なんか、莉菜は部屋で飲み直したそうで、コンビニで缶酎ハイを3本ぐらい買ってホテルの部屋に2人で入った。
「寒いわよね。先に、シャワー浴びてきたら。温まるから。」
「先にいいんですか?」
「もちろんよ。私は、飲んでるから。」
「じゃあ、お先に。エアコン、付けときますね。」
「ありがとう。じゃあ、待ってるからね。」
シャワーを浴びて出ると、莉菜は、お酒に飲まれたのか、ソファーで目を涙でいっぱいにして寝ていた。流石に、寝ちゃうと重くて、お風呂に連れて行けそうにないので、上着と、服を脱がせ、下着だけにしてベットに寝かせた。そして、厚い布団をかけた。
莉菜、ごめん。私が事故に遭ったばっかりに、こんなに悲しい思いをさせてしまって。私も下着姿になって、莉菜の布団に入った。
私の今の体じゃあ、莉菜を楽しませてあげられないけどとは思いつつ、目の前にある莉菜の顔を見ていると、愛おしくなって、ぎゅっと抱きしめた。そして、私の唇を莉菜の唇に重ね、そのままずっと体を寄せ合った。
でも、朝起きて、女性と寝ていたと思ったら嫌われるかもしれないから、ずっと一緒にいたかったけど、私は、横のベットに入って寝ることにしたの。誰もいなかったベットは、とっても寒かった。
朝日が窓からこぼれて、目が覚めると、莉菜が、私からずれた布団をかけ直してくれていた。
「おはよう。起こしちゃったかな。でも、私、昨日も酔って寝ちゃったのね。服脱いだ記憶ないけど、自分でベットに入ったみたい。いつも、恥ずかしいところを見せちゃってごめんなさい。」
「いえ、いえ、そんなことないですよ。私、シャワー浴びてすぐ寝ちゃったから、その後に、莉菜さんは自分で寝たんじゃないかな。でも、今日は昨日と違って、とってもいい天気ですね。雪、とってもキラキラ、陽の光を反射して綺麗だけど、すぐに溶けて電車も動くかも。」
「そうね。今はとても綺麗だけど、溶けると泥だらけになるから、早く出ようか。」
「はい。でも、もう少し、この綺麗な風景を見てましょうよ。」
2人で並んで、下着姿のまま、暖かい陽が差し込む窓から、汚いものを全て消してくれる真っ白な雪景色の横浜の街をずっとみていた。
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