第121話
戦力を求める場合の契約相手として、相応しい魔法生物には大きく分けて二通りある。
一つは、単純にその魔法生物自体が強いタイプ。
当たり前の話だけれど、強い魔法生物は味方に付ければそりゃあ強い。
そしてもう一つは、戦いに有用な特殊能力を保有してるタイプであった。
例えば何らかの方法で僕を強化してくれたり、逆に敵を弱体化したりといった能力だ。
いやもちろん、単に強くする弱くするだけじゃなくて、霧を出して視界を悪くするだとか、その霧に毒が含まれてるだとか、そういった能力を持っている魔法生物も候補にはなり得る。
僕がその能力にあらかじめ対策を用意しておけば、それは敵に対してのみ作用する事になるだろうから。
まぁ、つまり契約候補となる魔法生物はとても多い。
もちろん図書館で調べて気に入った魔法生物でも、居場所が分からなきゃ契約はできないから、選択肢は必然的に絞られてくるけれど。
どんな魔法生物と契約するかに関して、僕とシャムの意見は割れている。
僕としては、自分が錬金術で魔法薬やら何やらを用意できるので、搦め手は十分だからと単純に強い魔法生物と契約するのがいいんじゃないかと考えたのだが、シャムの意見は逆だった。
シャム曰く、魔法生物が有する能力というのは、単なる便利な力じゃなくて、己の拠り所となるものだから、彼らはその扱いに非常に長けているという。
仮に同じように毒を発生させるとしても、魔法生物が能力で出したそれと、僕が作った毒の魔法薬とでは、結果に大きな違いが生じるのだと。
……確かに、僕が毒の煙を発生させる魔法薬を使ったとして、それがどの程度の範囲に広がるのかはおおよそでしかわからないし、場合によっては風に吹かれて思ったような効果が出ない事もあるだろう。
しかし毒の煙を発生させる力を持つ魔法生物は、常に風も意識していて、狙った範囲に高い精度で毒の効果を及ぼせる。
別に毒に限った話じゃないけれど、シャムは僕が錬金術を扱うからこそ、何らかの特殊能力を保有してるタイプの魔法生物と契約するべきだと主張した。
ただでさえ僕は幅広い魔法が使えて、それに加えて錬金術で道具を色々と揃えるとなると、どうしても選択肢が増え過ぎて、手を選ぶのに迷いが出やすい。
故に戦いの軸になる強い能力を持った魔法生物が、今の僕には必要だって。
そこまで言われると、シャムの意見にも納得はできた。
だけど僕としては、どうせ契約するなら、やっぱりなるべく強い魔法生物がいいなぁって、ちょっと憧れに近い気持ちもあるんだけれども。
「じゃあ、特殊な能力を持ってて、自分もそれなりに戦える力のあるのにする? ただ、強くて能力もある奴って、プライドが高くて面倒なのが多いんだよね」
僕の迷いを察したのか、シャムがそう提案してくれる。
あぁ、能力を持ってて尚且つ強いなら、迷わずそれを選びたいけれど……、そっか、プライドが高いのか。
契約相手を選ぶには、その魔法生物の性質や価値観と、僕の相性も考慮しなきゃいけないから、そこは大きなマイナスだ。
いやでも、僕はプライドが高い生き物って、実はそんなに嫌いじゃない。
だって、シャムだってプライドは結構高いし。
……そういえば、シャムも自身が身のこなしや爪で戦えて、妖精としての能力も備えてるから、『強くて能力もある奴って、プライドが高くて面倒なの』になるんだろうか。
流石にこれは、言えば臍を曲げられてしまいそうだから口には出さないが、そう考えるとなんだか可笑しくなってきてしまう。
結局のところは、その魔法生物が強くても弱くても、能力を持っていても持っていなくても、僕といい関係を築けるかどうかが、一番重要に感じる。
どんなに優れた魔法生物と契約できても、仮にソイツが僕にとって嫌な奴なら、その力を積極的に借りようとは思わないだろうし、そうなるとそもそも契約する意味が薄い。
逆に相性が良くて積極的に協力し合えるなら、強さや能力に欠けていても、話し合いで僕が持たない知識や視点を提供してくれるだけでも、十分に力になるだろう。
今、こうして相談してるのだって、僕が学校で学んだり本で調べるだけは得られぬ知識や視点を、シャムが持っているからだし。
あぁ、いや、シャムは特別だから、もしも魔法生物に関する知識がなかったとしても、やっぱり相談はするか。
なので幼い頃から共に在るシャム程はどうしたって無理でも、契約する魔法生物は、良い関係を築ける相手を選びたかった。
「相性重視かぁ。……うぅん、そうだね。それが大事なのは確かだけれど、キリクと相性の良さそうな奴か」
相性を一番重視しようって僕の意見に、シャムが唸る。
まぁ、その魔法生物が強いとか、何かの能力を持ってるとかと違って、相性の良さってすぐに判断が付くものじゃない。
例えば穏やかな性質をしてるとか、人間と付き合いがあるとかなら、そりゃあ悪くはなさそうだってわかるけれど、そうした魔法生物は割と稀だ。
それに僕の場合は、殆どの時間をシャムと一緒だから、相性はその魔法生物と僕、だけじゃなくて、シャムも含めて善し悪しを考える必要があった。
いやむしろ、シャムと上手く付き合える魔法生物なら、僕だって上手く付き合えると思うのだ。
「あっ、一種というか、一体いる。多分、それなりに強くて、能力があって、何よりキリクと凄く相性がいい筈の、妖精がいる……かも」
少しの間、ウンウン唸りながら考えてたシャムが、何かに思い付いたかのように顔を上げる。
そして何やら物凄く都合の良い、条件の全てを満たした存在の話を始めたけれど、……どうやらそれは、妖精の一種が僕と相性が良さそうだというよりは、完全に個の話になるらしい。
……もしかして、シャムの個人的な知り合いだろうか?
シャムの知り合いの妖精なら、僕も大体は知ってるんだけれど、そんな都合の良さそうな相手って、居たっけ?
思わず首を傾げてしまうが、シャムは一つ頷くと
「いや、ボクと直接の面識はなくて、話に聞いただけ。むしろ知り合いはキリクの方だよ。彼女は、シュリーカーは、森に捨てられてた赤ん坊のキリクを拾って、ケット・シーに預けた妖精だ」
何だかとんでもない事を言い出した。
赤ん坊の僕を拾ったのって、ケット・シーじゃなかったの?
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