ミラクル☆バニー ~ 君に何度でも恋をする ~

真朱マロ

第1話 そのいち・何度でもキミに恋をする

 戦う女性は美しい。

 愛と勇気を胸に抱き、ドリームランドの平和を守るミラクル☆バニーのミミィちゃんは、小学生時代の俺にとって女神だった。


 なんの話だって?

 俺の心をつかんで離さない、愛しのミミィちゃんの話だ。

 男の子向きの特撮戦隊はちゃんとあったけれど、俺がはまったのは女の子向きの特撮番組だった。

 小学生時代は女神だったけれど、今や嫁と呼んでいい存在である。

 初恋だと言いきれるぐらい、ときめいて悪いか?


 俺が特別に変わってるわけじゃないぞ。

 魔女っ子と戦隊の要素が組み合わされていて、俺だけではなく同級生でもけっこう見ている子が多かった。

 ミミィちゃんの戦闘時のキラキラした好戦的な瞳の輝きは、ふんわりした学校生活中の微笑みとのギャップが大きくて、一緒に見ていた親世代のハートも撃ち抜き伝説を生んだのだ。


「ミラクル☆バニー」は当時、男女を問わず憧れの存在だった。

 普段は天然で一生懸命なのにドジばっかりの女学生ミランジェちゃんが、世界に危機が訪れるとドリームランドの戦士であるミミィに変身して戦う。


 お約束と言えば、お約束のベタな展開だけどさ。

 それがいいんだよ。日本人設定なのに、ミランジェって名前も気にするな。

 大人から子供まで気軽に楽しめたし、研究すれば深みもある構成になっていた。


 危機に駆け付けたミランジェちゃんが星のブレスレットを空に掲げると、ドリームランドから降り注ぐ夢の光によって、ミラクル☆バニーのミミィとして本来の姿を取り戻すのだ。


 暗闇に浮かびあがるウサギの白い耳と、ふわふわのファーが縁取るミニスカート。

 リボンシューズからすらりとした足が伸び、ニーソックスとスカートの裾の間にある絶対領域の太ももの白さは、女の子だけではなく男の子の視線も釘づけにしていた。

 他に類のない健康的で美しい絶対領域はミミィちゃんだけの白い珠宝!


 空前のコスプレブームを巻き起こしたのは、衣装の愛らしさだけではない。

 話数が進むごとにドリームランドの力を受けた美少女戦士が増えていき、ウサギ・犬・猫・ヒツジ……アニマルモチーフの モフモフ戦士たちは性格もそれぞれが個性的だったのだ。

 俺の心はミミィちゃんだけのものだったけど。


「君の夢、ずっと忘れないで!」


 戦いが終わった後の決め台詞。

 その二.五次元の微笑みの威力と言ったら!

 テレビ越しに目があった気がして、心臓がドキドキと高鳴り、夜も眠れなくなった。 

 ミミィちゃんが危機に陥ったまま、また来週のテロップが流れたときは、心配と不安でうまく眠れないぐらい胸が痛かった。


 変態と呼ばれてもいい。

 これが本物の恋だと胸のときめきが教えてくれる。


 たった一つ、気にいらないことがあった。

 危機に陥ったときに現れるお助けキャラのブラック・ナイトが、ミミィちゃんにやたらくっつくのでずっとモヤモヤしていたのだ。

 そして、隣に棲む幼馴染のバーテンダーがブラック・ナイトだったと正体が明らかになり、ミミィちゃんとの恋が成就してしまった時には絶叫した。


 ミミィちゃん、いくら幼馴染で年上のお兄様とはいえ、そんなチャラそうなイケメン・バーテンダーのどこがいいんだ?!

 二人がドリームランドの王様と女王様におさまる最終回に、本気で号泣したものだ。

 

 中学を卒業すると同時に結婚してしまうとは……幼な妻にしてもほどがあるだろぉぉぉぉ~日本の法律が通用しないドリームランドなんて嫌いだ。


 ブラック・ナイトめ、俺のミミィちゃんを返せ。

 ハッピーエンドを心から憎んだのは、その時が最初で最後だった。


 俺の初恋は、番組終了と同時に儚く散ったと思っていたけれど。

 今、俺の心は再びあの情熱を取り戻している。

 衰退しかけている特撮を再び盛り上げるため、あの栄光を再びとばかりにテレビ局が勝負に打って出たのだ。


 還ってきたぞ、俺のミミィちゃんが大人になって!!

 ドリームランドの平和の要であるプリンセス・ラビィの命を狙って、魔の手が迫りくるのだ。


 ちなみにブラック・ナイトは初回で封印されてしまった。

 だーかーらー幼馴染とはいえチャラそうなバーテンダーを伴侶に選ぶなと、俺たちファンがあんなに声を限りにして叫んだのに!!


 ミミィちゃんをかばった設定ではあったが、次に出てくるのは最終回だろ?

 そして夫婦の愛でドリームランドを救うのか?


 なまじテンプレ展開なだけに、面白くない予感満載だ。

 もこもこのベビー服を着たラビィちゃんは、ミミィちゃんの娘役だけあって超絶かわいいけどな!


 とにもかくにも。

 ミラクル☆バニーは放映が開始された。

 新たな戦いの日々が始まるのだ。


 女王になったミミィちゃんだけではなく、ドリームランドの戦士たちも還ってきた!

 十年経っていたって、いまだに二十四歳から二十六歳。

 美少女達が美女戦士に成熟しただけだ!!


 俺たちファンのハートをどれだけかき乱せば気がすむんだよ。

 やってくれたな、テレビ局!


 ここで終わっていたなら、ただの一ファンで終了だっただろう。

 しかし、再放送が決まると同時に新シリーズの予告も立ち上げられ、公式ホームページに撮影スタッフ募集の広告が出ていたからな!!


 ミラクル☆バニーを盛り上げるため、番組を愛する君の手を求めている。

 なんて言われたら、素通りできるわけがないだろう!


 俺は生まれて初めて本気になった。

 柄にもなく熱くなり、ミミィちゃんへの燃え盛る情熱を注いだ。

 大学入試よりも真剣に挑んだ筆記試験を突破して、面接も熱い番組制作への情熱を語り、ミミィちゃん個人への愛をミラクル☆バニーそのものへの愛へすり替えて思い切りアピールして、他の志願者たちを蹴散らしたのだ。


 俺は勝った!

 俺の本気は、テレビ局の人事係に通用したのだ。

 ミミィちゃんをすぐ側で見つめる権利を手に入れる戦いに、これ以上はない圧勝で勝利したことは、今後の人生にも大いなる自信になるだろう。


 腐ってる? なんとでも言え。

 立場はバイトでも、堂々と撮影に同行できる照明係の座を手に入れたのだ。


 そして。

 ミミィちゃんは、今まさに、俺の目の前で変身を遂げていた。

 ミニスカートがスリットの深いチャイナドレス風に変わったことで、大人の色香を感じさせる。

 しかし、太ももの絶対領域の艶と張りは、ますます気高く美しい白さなのだ。


 戦うウサギのコスプレ戦士と悪く言う奴もいるが、格闘シーンの動きも健在だった。


 くぅ、なんてまぶしい……その好戦的な微笑みも変わらずきらめいて俺のハートを釘付けにする。


 そうか、スタントマンを使っていなかったんだな。

 やっぱりミミィちゃんは最高だ!


 主演女優の名前?

 そんなの俺にとってはどうでもいい。

 愛しい君を最高に美しく見せるため。

 俺は今日も高々とレフ板を掲げる。


 俺は何度でも君に恋をする。

 そう、君だけが俺の女神。


 戦え、ミミィちゃん!

 愛と平和と愛しの娘を守るために!!

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