第32話

 あたいは矢をつがえ、牛鬼の右側面に回り込むべく接近する。腐った匂いと同時に放たれる咆哮。でも―――。


「はぁ!」


 周の太刀が波を切り裂いて。そのまま強引に突っ込むよ!

 弓を構え、弦を引く。引分け―――会。

 狙うはキモいイボイボの頭。連続射撃!!


「しゃあぁぁぁぁぁ!」


――――バシュン――――バシュンバシュン!


 フラッシュのように連続した光。点滅。

 それは牛鬼の右頭部をめがけ、放つ。


「きた―――咆哮だよ!!」

「せりゃぁぁ!」


 連続して弾かれる矢と、多数の顔がギロりとこっちを睨む。可愛くないんだよ!!

 あたいの横には、波を切り払う周の姿。それは、幾度も生ぬるい風を振り払う剣技。周は強い、だからこそ、多少強引な戦い方もできるってもんさ。頼んだよ、周。

 周囲を飛ぶ射手達に叫び、伝えた。


「とにかく射って射って射ちまくれぇ!! 海面を走る金髪を援護しなぁぁ!!」

「――――はい、神楽の射手様につづけ!」

「しゃあーー!」


 無数の光る矢を弾くべく、連続して響く牛鬼の咆哮。絶え間なく、あたいも射ち続ける。膝をつき、旋回してもなお叫び、放つ。つらぬけ!!


―――――キィイン―――――バシュン。


「完全にこっちに夢中だねぇ。ケダモノかい」

「けだものなんですか?」

「そうだね、野蛮ってことさ」


 弥生の声が聞こえた。可愛い声だねぇ、周のやつが惚れるわけだ。ホント無垢な子なんだねぇ。

 そこに海面を駆ける射手、あの金髪の嬢ちゃんからの一射。

 牛鬼の顔面を下から射抜き、突き刺さる。輝く光が化け物を狂わせる。


「―――――。」


 苦しんでるね、これで2つ目。右側は潰した。残るは6つだなぁ。


「つがえぇぇぇぇ――――」

「弥生さん! 僕が支えます!」

「うわぁ――――うわぁ!?」


 急上昇からの――――宙返り!!

 そのまま捻れるように蛇行。咆哮を避ける。

 化け物の頭上、乱れ射つよ!!


「つがえぇぇぇ、シャアアアッ!!」


 キイイイン―――――バシュンバシュンバシュン


 チカチカと点滅するそれは、神楽の光。連続的に雷の雨を降らす。

 ギョロリと向いた頭の数は4つ。背中に二つと、前にふたつ。でも、おせぇ!!

 多方向からの光の雨。周りの射手もわかってきたんだなぁ。――――ん?


「ちいっ―――つかまれぇぇ!!」

「うわわあ!?」

「弥生さん!!」


 嫌な気配を感じて、翼を水平から鉛直に向けた。思った通り頭が伸びてきやがった。やっぱりこの頭、伸びるみてぇだな。

 あたいの真横には、ヨダレをタラしたきたねぇ顔が2つ。――――ち、1人喰われたかい。断末魔のような女性の声―――すまねぇ。でもその命は無駄にはしねぇ!!

 弥生の体を掴んで、そのまま牛鬼の左側面を沿うように急降下。海が緑色だねぇ!!

 周の刀が光る。切り払いからの、一刀一線。

 咆哮より速く―――頭の一つを斬りつける。バランスを立て直し、そのまま海面スレスレで低空飛行。なんだい、弥生ちゃん驚いて声もでねぇかい。矢をつがえ。振り向きざまに神楽の矢を乱れ射つ。


 「つがえええぇッシャアアア!!」


――――バシュンッ!!

―――――キイイン―――バシュンバシュン

―――――――キイイン―――バシュン!


 直前に、もう一方向からの一線。あたいの矢は命中。やるじゃん、金髪のお嬢ちゃん。

 左の顔をひとつ潰した。残るは5つ。


 暴れ狂う波が、荒波が海面を揺らす。金髪のお嬢ちゃんはいともせず、その波を飛び越えるように避ける。なかなか上手いね。将来有望だなぁ。

 そう思った矢先、再び強烈な輝く一線。神楽かぐらの射だね。前方にある4つ目の顔を潰したなぁ。


「なんだい。もう鬼蜘蛛をやっちまったのかい」

「あぁ………ゆり子さん……亮介さん!!」


 こんな時でも嬉しそうに笑うんだね。そうだい、その気持ちさ。化け物と戦うのも、気の持ちようってことだよ。

 半数の顔を潰された牛鬼は、暴れながら咆哮。あぁあ、完全に怒っちまってんな。


「いったん距離をおくよ」


 化神は憤怒すると、どんな行動をとるか分かんないからね。牛鬼から距離をとるように周囲を旋回しつつ、様子をうかがうよ。

 すると隣には、使い魔に乗った神谷夫婦が並列した。相変わらず美人な女性だなあ、ゆり子。よくもまぁこんな腹黒くなった嫁を好きでいるもんだね、亮介。いまとなってはその笑顔の裏に何を考えているのやら……。昔は根っこから慈悲深い性格だったけどさ、変わるもんだねぇ。まぁでも仕方ないか、2年前に亡くなったアイツと、仲良かったもんなぁ……。


「ふふふ。助太刀にきたわ~。弥生ちゃん、大丈夫??」

「は、はいぃ!!」

「フン……どうやらまだ生きているようだな。つまらん」

「え? ぇぇ!?」

「亮介さん、弥生さんは、絶対僕が守りますから!」


 はっはっは、素直じゃないね~亮介。ニヤニヤしやがって。本当は心配でたまらなかったんだろうよ。アンタは家族を大事にする男だからなぁ。


(そうかい助っ人かい、それも弥生ちゃんのためにかい。やっぱり本当だったのかい、太陽神の器ってのは。ただ……もし蘇ったとして、消えたりしないだろうね、弥生ちゃん)


「久しいねゆり子! 感動の再開はあとだよ。あの金髪の嬢ちゃん、なかなかやり手だよ」 

「そう? 水無瀬が言うなら、期待するわ〜」


 そのまま二手に別れる。さぁて、これで一気にたたみかけるよぉ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る