第23話

 紗雪さんは立ったまま、懐から書簡を取り出すとそれを両手で持ち直しました。私も姿勢正しく立ってます。


「サンジョ様、ミコト様からの書簡を届けに参りました」


 すると隅っこにいた白いシカさんが起き上がり、目をパチパチ。残りの2匹はスヤスヤ寝てます。ほんと思うんだけど、なんで神様って動物なんだろ? でも可愛いからいっか。

 

「ふーん、そうなんだ。ちょっと起こすから待っててね、おきて~お姉ちゃ~ん!! お客さんだよ~!」


 すると2匹のシカを慣れた感じでユサユサとしておりますこのシカさん。その姿が健気で可愛いです。

 紗雪さんは動じず落ち着いておられます。やっぱりクールですぅ!


「うばぁ! お客様でゴザイマスか!?」

「……………おはよう」


(なんだろう、やっぱり神様ってかわいい)


 3匹のシカさんたちは横並びに整列し、白い耳をピンピンさせてる。みんな同じ姿なんだけど、雰囲気が違うんだよね。ちょっとだけ聞いてた話をもとに、観察してみます!


「ようこそゴザイマス! これはこれは紗雪サンではありませんか」

「はい、お久しぶりです」


 この真ん中にいるシカさんはリーダーっぽい感じの雰囲気です。赤い勾玉のペンダントをぶら下げてます。名前はタキリ様。


「……………寝よう」

「ちょっとお姉ちゃん! お客さんが来たばっかりなのに、寝ちゃダメじゃない!!」


 眠そうにしていて、青い勾玉のペンダントをぶら下げているのがイチキ様。

 緑の勾玉のペンダントは、一番しっかりしてそうなシカさんのタキツ様です。


「あれ?? じゃあサンジョ様は??」


 一斉にこっちを振り向く3匹の白いシカさん。ちょっとだけドキっとしました。


「あなたは? 新しい射手さんデスネ??」

「あ、はい。朝倉弥生って言います!!」

「じゃあ分からなくてもしょうがないかもね~~サンジョってのは」

「…………ここにいる3人のこと」

 

(え? 3人ともサンジョ様??)


「弥生サン弥生サン。要するに団子みたいな神様なのデスヨ!!」


 え?? もっと意味が分かりません。助けを求めるように紗雪さんのほうを振り向くと、ため息を吐きました。教えてくださいぃぃ!!


「つまりサンジョ様は3人揃ってそう呼ばれるの。要は三姉妹の神様なの」

「三姉妹なのですか———あ、すいません!! 失礼な事を言ってしまったかもしれません」


 謝るように頭を下げた。みなさん気にしないでいいって言ってくれてますので、大変お優しい方々です。でも匹じゃなくて人なんだね。

 紗雪さんは書簡を渡すとゆう。私も同じように浅い礼をした。


「それでは、これで帰りますので」

「なんだい。もう帰っちまうのかい?? せっかくきたんだ、ゆっくりしていきなよ」

「そうですね、急ぐ理由があれば別ですけど。仕事ならここからでも行けますし」


 後ろから水無瀬お姉様とカッコいい人が歩いてきた。この場合、紗雪さんに判断してもらわなきゃ。


「遊んでいる暇はないの。稽古もしたいし」

「なんだいつれないね~」


 ちょっと残念だけど仕方ないよね。私も稽古したいし。


「ちょっと待つでゴザイマス! 書簡にはこう書いてあったでゴザイマス!」

 

 紅い勾玉をぶら下げたシカさんが、書簡をモシャモシャ食べながらこうおっしゃいました。


《弥生の使い魔を探してやってくれぬかの? よろしく頼んだぞ、サンジョや。それとな、以前の成果もあって、弥生の道具を中間世界でも作っておいたから、そのうち紗雪の道具と共に届くじゃろう。2人とも稽古はそれでするんじゃ、よいな》


 なんで書簡を食べたのか分かんないんだけど、しかもシカなのに食べてます。

 そんなことを考えていたら、紗雪さんがこっちを見て、どうしてか眉間にシワをよせてます。でもクールです。


「どうやらあの鵺の討伐が、結構いい報酬になったみたいね」

「あたいも聞いたよ。鵺を葬ったんだってね!」

「ええ、3人がかりでだけどね」


(報酬って、この前亮介さんがチラシ寿司を作った時に言ってたことだ)


 中間世界で化け物や念を討伐すると、それに見合った報酬が現世の世界で受け取れる。その仕組みは分からないんだけど、神社に設置してある賽銭箱の中に補充されるそうです。

 サンジョ様姉妹はコクコクとうなずきながら、こんな事を言いました。


「ミコトはホント、変わりものでゴザイマス」

「確かにね~。信仰心を集めないって、変わってるよね」

「……………すやすや」


(寝てます1匹。うーん、全然ミコト様と違う性格してる。可愛いけど)


「そう。まぁでもそういう理由なら仕方ないわね、少しの間だけお世話になるわ」

「えっと、よろしくお願いします!」

「家族が増えたようなもんさ。賑やかになるだろうねぇ。おい周、部屋を準備してやっておくれ。あたいも色々調達してくる」

「任せてくれ。それじゃあ僕は部屋の準備をしてくる」


 話を終えた紗雪さん達と一緒についていこうとしたら、シカさんに呼び止められました。

 うん? なんだろう。もしかして、使い魔の事かな??


「弥生さん。座布団がそこにあるから、そこに座ってね! 立ったままだと、疲れちゃうでしょ?」

「あ、はい」


 隅っこにあった座布団を持ってきて、フローリングっぽい床に敷いてポフンと座ります。

 イチキ様は寝ておられるので、赤い勾玉のタキリ様と、緑色の勾玉のタキツ様……ヤバイ、わけわかんなくなっちゃいそう。


「あの、私に何かごようでしょうか??」

「弥生サンの使い魔の事デスヨ! ミコトに探してって言われたものの、困っているのデスヨ!」

「使い魔ってのはね、簡単にみつかるもんじゃないんだ。だから本当は、それぞれの射手が所属する神社の神がやることが多いんだよ」

「えっと、その……お恥ずかしながら、私あまり詳しくなくて……わからない事が多いかもしれません」


 シカさん達は顔を見合わせると、じ~っと見つめあって何か考えてます。なんか、頭の中で会話しているようなご様子です。

 突然寝ていたイチキ様が起き上がると、目をパチパチさせました。


「もしかして……絆の事も知らないの?」

「あ、はい……知りません」

「謝らなくていいよ………それなら教えてあげ……る―――すやすや」

「弥生サン弥生サン。使い魔との絆の結び方はデスネ!」

「あのね、あのね、キスをするんだよぉ~」


 サンジョ様のコンビネーションは凄いんだけど、そんな事より私は衝撃的な言葉を聞いた気がします。キス? くちずけ?

 なんだろう。私、動物とキスするの??

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