第22話

 飛んでます。私、やっぱり飛んでますぅ!


 あれから朝起きたら、紗雪ハトさんがシャワーを浴びてました。その音で目が覚めたのはナイショです。私も浴びました!

 ピカピカの体で温かいスープを飲んで、カラスさん達に見送ってもらい、旅の再会であります。


 温かい風を感じながら、グングン進んでいきます。青い空には他にも鳥さん達がいっぱいで、道路には人が乗る車が走ってて。なんだろ、飛ぶのって最高です!

 綺麗な景色を楽しみながら、いざ厳島神社へ!


「そういえば、あのカラスさん達は、どんな存在なんですか?」

「知らないわ。でもミコト様は神の使いをサポートする存在って、言ってたわ」

「へぇ~、もしかして。どこかの神様の使い魔かもしれませんね!!」

「そうね。ほら、厳島神社が見えてきたわ」


 海にそびえる立派な赤い鳥居。まるで竜宮城が地上にそのまま現れたかのような景観です。黒い藁のような屋根に、色褪せた木材の床。まるで水の上に浮かぶ、芸術であります!!

 あれ? でもなんか観光している人がチラホラいるし………あれ?

 不思議に思ったので、紗雪ハトさんに聞いてみました。


「この神社、結界がないんですか?」

「一か所だけあるわ。目的の場所は、海と反対方向にある森みたいな場所があるでしょ。そこが入口」

「いりぐち?」

「いけばわかるわ。こっちよ」


 パタパタと翼を羽ばたかせ、本殿っぽい大きな建物から少し離れた陸地側、その林のような中へと降りていきます。なんか、枝がいっぱいあって身体がチクチクするんだけど……うーん、紗雪ハトさんもたまにパキパキ音を鳴らしながら降下していってます。

 枯れ葉の積もった地面へと降りると、そこには黒く変色した木製の門があった。なんだか屋敷の門みたいな感じです。


「この門に体全体で触れてみて」

「こうですか―――うゎぁ!?」


 門に寄っかかるように体をくっつけてみました。すると――まるで大きな掃除機に吸い込まれるかのように体が引っ張られて、目の前が真っ暗になりました。


 ***


「え……ここって、中間世界」


 目を開けると、そこは薄暗い空の下、陽の光がない中間世界と同じ雰囲気の木々。予想外のことで、ちょっと驚いた。

 さっきまで見ていた厳島神社はそのままで、観光していた人の姿はないです。

 黒く変色した門から、壁を通り抜けるみたいに巫女服姿の紗雪さんが登場。


(え? じゃあ私も??)


 自分の服を見てみると、紗雪さんと同じ巫女服でした。この服は結構可愛いと思うんだけど、やっぱりこの世界は中間世界なんだ。

 そこに、建物があるほうから装束姿の男の人が歩いてきた。平安時代に出てきそうな黒い服、狩衣かりぎぬを羽織っていて、膝の下くらいから見えてる袴は紫色だ。


「おや。誰が来たのかと思ったら、紗雪殿ですか」

「聞いてなかったの? 書簡を届けにきたの」

「書簡? 僕は聞いてませ―――は!?」


(この男の人、なんだか私のほうを見て驚いてるみたいだけど……どうしたんだろう)


 その男の人は短髪で黒髪。王子様のような美顔に、優しそうな眼差しをしていた。ついでに身長が高くて、超カッコいいです!! でもタイプじゃないけどね。

 その美男子さんは私の前までくると、突然膝をついて胸に両手をあてました。なにやってんだろこの人?


「はじめまして、僕の名は水無瀬みなせ しゅうです。それにしてもなんて可憐な女性なんだ……その黒髪に、花のような力強さを感じるその美貌―――私にはもう、君しか視えてない」

「うん? うん、ありがとう!!」


(こんなに格好いい人にそう言われたら、なんだか嬉しいな~)


「是非、僕と二人っきりで特別な時間を過ごしませんか?」 


(うーん、それは別にいいや。そんな時間があったら弓引きたいし! 断ろっと)


「そんなこと言っていいのかしら? 奥さんがきたわよ」


 紗雪さんのその言葉に、ハッとしたように驚いたその男の人は、ゆっくりと後ろを振り向いた。私もそっちに目を向けると―――。


(え、うそ!? めっちゃ色気のあるお姉さん……超グラマーな雰囲気…)


 紅白の巫女姿のお姉さん。軽いパーマをあてたような黒髪が肩まで伸びてて、ところどころ赤色のメッシュ。大人のウルフヘアー!!

 しかもしかも、ちょっと釣り上がった瞳がカッコよくて、スタイル抜群だ。モデルさんみたい。


「おやおや。あたいという嫁がいながら、若い子を口説いているのかい?」

「そんなまさか……僕の中では君が一番だよ。だから……その忍ばせている刃物で刺さないでくれよ……頼むから!」

「へぇ~、まあいいさ。あたいの旦那が失礼な事をしたねぇ。すまないね、可愛いお嬢ちゃん」


 この声は!? ちょっと低めの声に……その身のこなしが、とってもセクシー。まさに危ないお姉様!


「あたいはこの神社で射手をしてる水無瀬みなせ 静香しずか。お嬢ちゃんの名前を聞いてもいいかい?」

「私、朝倉 弥生です!」

「弥生ちゃんだね。しっかり胸に刻んだよ、あたいの事は好きなように呼んで」

「じゃあ、じゃあ! 水無瀬お姉様でもいいですか!?」

「はっはっは! 可愛い事を言ってくれるねぇ!」


 お姉様は腰に手をあてて、魅惑の笑顔を振りまいてます。この人はきっと、あの宿屋で出会った姉御肌のハトさんだ。声も同じだし間違いないと思います!


「ところで、サンジョ様は本殿の中にいるハズさ。用事があるんだろ?」

「ええ、話はあとよ。ひとまずこの書簡を届けにいきましょ」

「あ、はい。わかりました!」


 いったんお姉様と別れて、ミコト様の書簡を届けに行くことになりました。

 空は薄暗いし、植栽は相変わらず元気のなさそうな色をしてるけど、なんかあまり不気味に思わない、不思議。


 砂の道を進み、深緑の色をした海に浮かぶ古風な桟橋を渡る。建物の柱とかは黒ずんだ赤色なんだけど、なんだか水の上に浮かんでいる和風な宮廷って感じ。

 海を背に向けて、相向かいに座る獅子みたいな銅像の間を通過した瞬間。


(あれ? なんか急に色鮮やかになった)


 後ろを振り向く。緑色の海や赤い鳥居はそのままだし、空は薄暗いままだ。

 向き直ると、なんだかこの空間だけリフォームされたかのように明るい色をしていた。神社っぽい雰囲気はあるけど、ちょっと快適な和室ってイメージです。

 そのまま奥へと進んでいくと、落ち着いた古風な内装。網目になった木材の仕切りに、和風な暖簾のれんが飾ってあった。そしてその奥には……。


(白いシカさんが寝てます。しかも2匹も……っと、あの隅っこで座っているシカさんをいれたら3匹だ)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る