第7話

「なにを言うかと思えば、妾に性別などない」

「そうなんですか。私てっきり……お爺さんみたいな喋り方するから、その」

「妾はオナゴじゃ。話を戻すぞ?」

「は、はい!」


(オナゴなんだ)


 キツネの神様は座布団に伏せたまま、白い尻尾をパタンと動かした。なんだろ、かわいい。


「お主が神木を通じて行った世界は、中間世界と呼ばれる場所。細かい説明はさておき、今の稽古は、その場所で働く事が目標じゃぞ」

「目標……」


 中間世界って、あの薄気味悪い世界の事だよね?

 死んだ人の念を貫くとか言ってたけど。その世界にもう一人いるんだ。


「どんな人なんだろ……」

「お主と同じくらいのオナゴじゃよ。どんなオナゴかはいずれわかる。じゃが今のお主は形式的にもまだ退魔の射手とは呼べぬ。せいぜい見習いの射手じゃの」


(見習いの射手か。そりゃそうだとは思うけど、形式ってなんだろ?)


 するとキツネさんは起き上がり、テクテクと歩いたあと、再び窓の枠へと飛びのった。あ、どこかいっちゃう!


「あの、形式って―――」

「よいか弥生。今のお主は我の神木に手を添えれば、中間世界にはいける。じゃが絶対に1人で行ってはならぬ。よいな」


 そういって、窓から外へと飛び降りた。私は立ち上がり、キツネさんの行方を追うべく窓から顔を覗かせた。キョロキョロと見渡してみる。


(あ……なんか木の枝に挟まれてるみたい)



 ***



 稽古を初めてから、一週間くらいたった。

 今日も畳に貼った紙を狙って、弓を引く練習をしてます。


「はい、じゃあ最後の一本ね」

「はい!」


 ゆり子さんから矢を一本受け取り、畳から5メートルの位置に立つ。その位置にあった木の棒は無くなっていて、的をみながら畳に対して直角に立った。

 左手で弓を持ち上げ、矢を弦につがえる。カチッと音が鳴ったら装填完了。

 左膝の上に、弓の下部を乗っけて、右手を腰に添える。

 顔だけ動かし的を見て、もう一度正面を向いた。


「はい、うちをつくって〜弓構ゆがまえ」


 右手親指を弦に引っかけて、人差し指と中指を真っ直ぐにしたまま、弦を挟む。

 左手を伸ばしながら弓を握りつつ、手の内をつくる。そのまま左手を軽く伸ばし、顔だけ的に向ける。


「はい、弓を持ち上げて〜打起うちおこし」


 左手は伸ばしたまま、弓を持ち上げる。右手は目線くらいの高さ。

 矢の向きは真っ直ぐを保つイメージで、弓をゆっくり降ろしていく。

 弦を引っ張る右手は、右のほっぺたにくっつけた。


「狙って〜。はなれ」


 右手をパーにして、弦を離す。


――ペシッ


 私の矢は畳に刺さった。これで4本目の矢も、畳に刺さったことになる。嬉しい!


「はい、それなりに良くなったわね。明日は基礎練習をしてから、かけの代わりに、違う道具を右手親指にはめて、引き尺を長くしましょう。射る距離も長くするわ」

「はい! 嬉しいです!」


 やった、ついに的までの距離が伸びるんだ〜。まだまだだけど、上達してるんだね!

 持っていた和弓を眺めるも、やっぱり君は美人さんだ。へへ。


「そしたら、今日の練習はもう終わろっか。片付け、いつものように宜しくね」

「はい! ありがとうございました!」


 ゆり子さんが矢を抜いて、専用の筒に入れてくれた。それを私に渡してくれたあと、綺麗なポニーテールを揺らしながらこの場を去っていく。


「よし、頑張って片付けちゃおう」


 まずは弓道場の射場にいく。射場に入ったら、神棚に向かって浅い礼をした。これはゆうっていって、神様への挨拶なんだって。


「まずは矢筒をしまって。つぎに弦が張ってある弓の片付けだ」


 和弓の上部を、射場の壁にあるヘコんだ木の板にはめて固定。腰をかがめる。

 右手で弦を掴んだら、左のももに弓を乗せて、左手で弓をグッと押す。

 弦を外して、軽く弓にクルクルって巻いたら、輪ゴムで弦の輪っかを固定する。


「うんうん。これでオッケー。あとは畳を倉庫にしまえば〜」


 稽古の場所からすぐ近くにある倉庫に、畳を一枚一枚運んでいく。背中にせおって、ヨイショ、ヨイショと。


「ふう〜終わった〜。畳をかける台はそのままでオッケー。よし、晩御飯の前にシャワー浴びよう」


 そう思って倉庫から出たとき、難しい表情をした苦手なひとが登場。

 なんか回廊から歩いてきた。ちょっと緊張しちゃう、なに言われるんだろ?


「どうやら今日の稽古は早めに終わったようだな」

「あ、はい。終わりました」

「じゃあちょっと掃除しろ。場所は神木の横にある建物だ、箒はそこの倉庫に入ってるやつを使え」

「はい、わかりました」


(あぁ〜やっぱり掃除なんだ。今日くらい特別に……いやいや、仕方ないよね……)


「フン……今日の晩御飯は唐揚げだ。大盛りで食べたかったらせいぜい働くことだな」


 亮介さんはそういうと、スタスタと回廊へと戻っていった。マジ?

 唐揚げとかマジ? 超楽しみぃぃ!

 倉庫から竹箒を手にとると、ウキウキしながら神木へと向かう。思わずガッツポーズしちゃった。



 

 

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