弓道の稽古であります!

第6話

「今ここにいるのが射場しゃじょうで、弓を引く場所のこと。ここから正面にある的を立てる場所は安土あづちで〜、その間にある、緑の芝生が矢道やみちですね」

「そうそう、だいぶ専門用語を覚えたみたいね」


 私は青いジャージ姿で、ゆり子さんに色々と弓道用語を教えてもらってます。

 実際に現物を見ながら教わるし、好きなことだからポンポンと記憶できちゃう。


「そしたら芝生に沿うようにある、あの砂利道は?」

「矢を取りに行くときに通る道、矢取道やとりみちです」

「いいわね、そしたら今度は弓に弦を張ってみて。使う弓は、あそこの弓立てに置いてあるわ」

「は、はい!!」


 体の向きを変えて、射場の隅にある弓専用の置き場にいく。

 私の身長より長い和弓を手に持ち、弓から垂れ下がっている弦をつかんだ。今は釣り竿みたいな状態。

 そこから射場の壁、床から高さ2メートルくらいの場所に設置された木の板を発見。中央がヘコんだその木の板に、弓の上部を押し当てる。うん、先端が固定された!


 右手は弦の輪っかを掴んだまま、腰を少しかがめます。そこから左のももに弓を乗せて〜左手で弓をグッと押す。おぉ〜シナッた!

 最後に弓の下部分に輪っかを引っ掛けて、ゆっくりと左手を戻せば……


「おぉぉ〜。美人さぁ〜ん!」


 弦を軽く弾いてみたり、角度を変えて眺めるけど、やっぱり美人どす。

 ウキウキしながら弓に弦を張ったあと、場所を移動することになった。道場から外に出て、風車がカラカラとまわる前を通ったら、広場のような場所にでる。

 そこには専用の台に、何枚も横並びに畳が立てかけてあって、その真ん中くらいに的が貼ってあった。実際に使う的紙なんだって。


「教えたように、最初はここから素手で引いてみて。矢はわたしが手渡すわ」

「わかりました! テーピングでの、親指の保護も完了。よぉし!」


 ゆり子さんから矢を一本受け取り、畳から5メートルの位置、直角に置いてある木の棒に両足のつま先をあわせる。立ち位置オッケイです。

 弓に矢を装填するため、左手で弓を持ち上げ、矢のはずを弦につがえる。矢の先端はトガってます。

 カチッと音が鳴って装填完了。左膝の上に弓の下部を乗っける。左手のみで矢と弓を支えます。左手はチョキみたいな形、カニみたいに矢を挟む感じ。


「はい、一度的を見て〜」


 顔だけ左にむけると、的に対して直角に立っていることを確認。再び正面を向く。


「はい。弦に右手を添えてから、うちをつくって〜弓を握って~」


 まずは右手親指を弦に引っかけて、人差し指と中指を真っ直ぐにしたまま、弦を挟む。残りの指は握って、弦に引っ掛けないぞと。そして右手で矢を支えます。

 左手を伸ばしながら、竹がクルクル巻いてあるその下側を握ります。キュッて絞るイメージ。これで手の内はオッケイ。

 

「そしたら体の姿勢はそのまま。顔だけで的を見て、弓を持ち上げてみて」


 なるべく真っ直ぐ立ったまま、顔だけを的にむける。左手は伸ばしたまま、弓を持ち上げた。弦を親指で引っ張ります。

 右手は目線くらいの高さから、ゆっくりと下げていって。そのまま右のほっぺたにくっつける。


「はいそのまま。合図するまで狙って〜。はいはなれ」


 右手をパーにして、弦を離す。―――ポフん。

 そして私の矢は畳に弾かれ、土の上に転がった……うぅ。

 右手親指にテーピングを巻いてなかったら、結構痛いかも。


「ふふふ。形は出来てるけど、まだまだね~」

「難しいです……でも、頑張ります!」

「そうね。今からだと、だいたい一ヶ月間くらいたてば、射場で弓を引けるようになるかな。もちろん、毎日朝から晩まで練習よ」


 一ヶ月間か〜。朝から晩まで練習しても、そんなにかかるんだ。でも、楽しい!


「はい。じゃあ次の矢ね―――」



 ***



「はぁ、今日は畳に弾かれたままだったな~」


 寮にある自分の部屋でシャワーを浴びたあと、和室で大の字になって転んでいた。ゆり子さんまだ2日目だし、初心者だから仕方ないっていってたけど。もうちょっと刺さってくれるもんだと思ってたのにな~。案外難しいって思いました。


「でも、毎日これで生活出来るなんて、嬉しいなぁ~」


 以前住んでたアパートより綺麗な部屋だし、豪華じゃないけどご飯もしっかり食べれる。でもでも、味はもうめっちゃ美味しくて。今日のシチューも、ほっぺたが落ちるかと思うくらいに美味しかったなぁ!

 ゆり子さんは優しい先生だし、亮介さんはまぁ……やっぱり苦手かも。はは。


「それにしても、私以外に寮に住んでる人っているのかな~?」

「そうじゃの。じきに戻ってくるじゃろうな」


 聞き覚えのある声に、飛び跳ねるように起き上がった。周囲をキョロキョロ見渡すけど、誰もいません。やっぱり空耳?


「妾はこっちじゃ。窓があるほうじゃ」


 慌てて後ろを振り向くと、空いた窓の枠に座っている生き物。そこには白いキツネさん。この神社の神様だ、でもキツネ。


「あの、キツネの神様―――」

「ミコトじゃ。妾の名はミコトの神じゃ」


 そこからピョンっと飛び降りると、テクテクと歩いてくる。隅っこにあった紫色の座布団に乗ると、ペタんと伏せた。


「この寮にはもう1人おる。今は中間世界にいっとるのじゃが、もうじき帰ってくるじゃろう」

「あの……」

「なんじゃ、興味がないのか?」

「ミコト様は……女の子ですか?」


 不思議に思ってたんだよなぁ。年寄りの爺ちゃんみたいな喋り方なのに妾って言うんだもん。もし女の子ならお婆ちゃんだよね。姿はキツネだけどさ。





 


 

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