第3話

 長かった神社の回廊を抜けて。私が案外されたのは、大きくて立派な木がある場所だった。真上を向くように、それを眺めた。

 およそ3階建ての家ほどの高さで、太い枝が大きく広がり、雪のような白い葉を、ゆらゆらと揺らしている。


「綺麗だけど……なんで白いんだろ……」


 今は4月の中旬のはず。季節外れだと思うし、それに純白のような葉色を持つ木なんて、私は知らない。


「あの……なんでこの木は白いんですか?」

「それはね、神様が宿っているからよ。触ってみて?」


 ゆり子さんは美人だけど、その言葉を理解出来なかった。神社の人だと思うけど、私にはチンプンカンプンだ。

 それに、さっきのおっさんは近くのベンチに座ってるしさ。なんでここに案内されたんだろう?

 神木に触れると、後ろに立っているゆり子さんのほうを振り向いた。


「神様って……でもなんで私は―――」


 質問しようと思ったその時。


「うわぁ!?」


 目の前は突然、白い輝き包まれた―――

 眩しくて思わず、目を閉じる。


「眩し!!」



 ***



 次に目を開けたとき、私は思わず叫んだ。


「うわぁ!? え?? ええええええぇぇぇ」


 空は薄暗く、太陽の光はない。黒色の雲みたいなのも浮かんでいる。

 周囲の建物の様子はさっきと同じだけど、全体的に朽ちている。それにゆり子さんやおっさんの姿もない。

 遠くを観ても、さっきまで緑豊かな山々がみえてたはずなのに……そこには毒々しい色をした山々。不気味すぎて、かなり怖い。


「えぇ?? なにここ??」

「そう慌てるでないぞ」

「ぎゃぁぁーーーーー!!」


 突然聞こえた声に驚いて、悲鳴をあげた。家にたまに現れる、黒いアレを見つけたときよりも大きな声で。


「じゃから、落ち着け、弥生よ」


(え? あたしの名前?)


 周囲をキョロキョロと見渡してみるけど、人の姿はなかった。幽霊とか亡霊とかいても、全面不思議じゃないって感じの雰囲気。どちらにしても気味が悪かった。


「妾はここじゃ。お主の足元じゃぞ」

「へ?」


 その言葉に足元へと視線を下げた。そこには、一匹の動物がチョこんと座っていた。

 

「白い……キツネさん?」

「やっと落ち着いたようじゃの〜」

「え……キツネが喋ってる……」

「ほれ、こっちに来い」


 白いキツネは起き上がると、4本の足を使ってスタスタと歩き始めた。歩いている先は、どうやら近くの建物みたい。

 ぼぅ~っと眺めていると、白いキツネはクルるんと体の向きを変えた。あ、こっち見た。


「弓道に興味があるんじゃろ、こぬのか? もしくは帰るか?」

「き、興味あります!」


 その言葉を原動力に、私は急いでキツネを追いかけるべく、駆け足になる。


「うわ!?」


 なにかを踏んづけ体がよろめいた。倒れそうになるも、バランスを保って持ち直した。

 足元を見ると、白い足袋に、赤い布。なにこれスカート??

 さっきまで私スーツだったよね??


 ふと顔を見上げると、建物の中に入っていくキツネさん。私は裾を持ち上げるように赤い布を掴むと、急いで追いかけた。


 建物の中に入ると、昔ながらの和風な空間。まるで古民家みたい。

 その部屋の中央には火のついてない囲炉裏と、座布団に乗っかっているキツネさん。なんか和んでる、キツネなのに。


「ほれ、そのままでよい。妾の前に座るが良い」

「は、はい」


 キツネさんの言うように、段を登ってそのまま畳の上を歩く。用意してあった座布団に座ると、気になっていた自分の服を確認する。

 スーツの上着のかわりに、白い胴着。なんかところどころ赤いラインが入ってて、ちょっと可愛いかも。

 ズボンのかわりに、赤いロングスカートみたいなやつ。よく見ると鮮やかな赤だし、なんか袴っぽい。


――なんか、巫女服みたい。


「さて、単刀直入に言うからの」

「え? あ、はい」


 その言葉にキツネさんのほうを向く。


「お主は、弓道を学びたいと思っておろう。じゃからこの吉備きびの神社に就職するが良い。弓を学び、それがやがて仕事となる」

「へ? あの、チンプンカンプンです」


 神社に就職って……そりゃ〜就職先は探してたけどさ。でもなんでキツネさんに言われるかな?

 ゆり子さんに誘われるわけでもなく……しかも弓道を学んでそれが仕事になるの?


(弓道を学んで……それが仕事? どういう仕事なんだろ。祭りとかでパフォーマンスするのかな??)


「やはり興味があるようじゃの〜」

「その。どんな仕事なんですか?」

「ふむ」


 キツネさんは起き上がると、クルんと一回転した。そしてまた座る。その動き、意味あるのかな?


『職の名は〝退魔たいま射手いて〟じゃ』


 



 

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