第2話
私は弓道場の横にあった、小さな家のような建物の一室。和室になっているその部屋の中央に座ってます。しかも正座で……
正面には、褐色した茶色の木材にもたれかかる少し老けた男性。なんだか怒られてるみたいな気持ちです。
「おい小娘、名前は?」
「
「なんで
「立入禁止の看板が無くなっていたので……」
「……なに?」
私がこの古めかしい神社に入ってきた理由。いつもなら立入禁止の看板が掲げてあるんだけど、今日はそれがなかった。
いつもなら工事現場にあるような、しましま模様のロープで囲われていたんだけど、看板が無くなっていた場所だけ、なんだか出入り口みたいになってたし、それに……
「嘘をついているかどうか見てくる、小娘はそのまま待っていろ」
「は、はい……」
(名前ちゃんと言ったのに。うぅ)
そう言ってその男の人は部屋から出ていった。その隙に……右手側にある空いた窓から弓道場へと顔を向ける。
そこには、さっきまで弓を引いていた女の人の姿はなかった。どこいったんだろう?
いきなりこの部屋に入れって言われて、慌てて入ったからな〜。あの人がどこに行ったのかわからない。でも。
(あの人が持っていた弓。触りたいな~。カッコよかったな~あの袴姿――)
ガサガサと音が鳴った。一瞬ビクってしたけど、再び正面へと顔をむけた。
顔を戻すと、今度は玄関のような場所に目を凝らしてみる。そこには、白色の尻尾みたいなものがピョコピョコ動いている。
建物の柱みたいな部分から、尻尾だけ……なんか可愛い。なんの生き物だろう?
すると、その尻尾は柱から引っ込むような感じで見えなくなった。
さようなら、尻尾さん。
「おい小娘」
「は!? はいぃ!!」
突然の声に思わず飛び跳ねそうになった。空いた窓へと顔をむけたら、さっきの男の人。今度は真剣そうな表情してるわ。
「ちょっと俺についてこい」
「え……どうしてですか? 私すぐに帰ります」
「事情が変わった。ひとつ言っておくが、看板はあったぞ。もちろんロープもな」
(なに言ってんだろこのおっさん。よし、ついていくフリして逃げよう。なんか危険な匂いがする!)
私は立ち上がろうとしたんだけど、同時に足が痺れてしまう。立ち上がれずに、そのままうつ伏せになる感じでバタンと倒れ込んだ。ちょっと痛い。
「あらあら、大丈夫?」
そのとき、優しそうな女の人の声が聞こえてきた。
顔をゆっくりとあげると、そこにはさっきの人がいた。
(あ、さっきの人だ。美人すぎてまぶしい!)
「足の痺れがとれてからでいいわよ? 主人はああだけど、悪い人じゃないからね」
「あ、え?」
その人は優しい声で私に手を差し伸べてくれる。ツヤのあるキツネ色の髪から、いいニオイがしてます。
それとは別に衝撃的な言葉を聞いた気がするんだけどな。ま、いっか。
足の痺れがなくなってきたので、そこから手を引っ張ってもらいながら立ち上がった。
「あ、ありがとうございます!」
「もう大丈夫みたいね、よかった。じゃあ靴をはいて、ちょっと神木がある場所までついてきてもらえる? 弓道、興味あるんでしょ?」
「興味……あります! いきます!」
窓の外にあったパンプスを履いて、外へと出た。目の前に広がったのは、緑鮮やかな芝生に、古いなりにも清掃された弓道場。その背景には緑豊かな山々。
おもわず、目がキラキラ輝きそうになる気持ちです!
「わたしは
「朝倉弥生です!」
「ふふふ。よろしくね、弥生さん」
「あ、はい!」
私は美人な神谷さんと楽しく喋りながら、後ろ姿が見えないさっきのおっさんが向かった場所へと歩き始めた。
「―――そうなんだ、じゃあ就活中なのね〜」
「はい! でもー、なかなか受からなくて……それでフラフラしてたら、いつも通るこの場所に来たんです。それで看板がなかったので、つい入ってしまいました……」
「ふふふ、そうなんだ。そしたらそれは、もしかしたら運命かもしれないわね~」
「運命、ですか―――」
他には誰もいない神社の回廊を歩きながら、ふと思うことがあった。それは、この神社の出入り口を眺めていたときだ。
不思議に思って見てたんだけど……そしたら誰かに「入ってこい」って、言われた気がするんだよな~。
(……気のせいかな?)
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