被告人、勇者。~魔王を倒して世界を救ったチート持ち勇者は裁判にかけられた~

温故知新

第1話

「被告人、前へ」



 大勢の貴族達が集まる謁見の間に、宰相に呼ばれた鎧姿の男が、騎士に連れられて現れる。



「はいはい、今行きますよ」



 ジャラジャラと音を立てながら歩いてきた『被告人』は、異世界から召喚された勇者である。

 長きに渡って人類を脅かした魔王を倒し、世界に平和をもたらした張本人だ。

 ようやく訪れた安明の世に、人々は勇者に感謝と喝采を送る……はずだった。



「はぁ、どうして俺が裁判なんて受けないといけないんだよ?」



 魔王が倒されて数日後、勇者召喚がなされた国の謁見の間は、張り詰めた空気に包まれていた。

 そんな空気が流れている場で、面倒くさそうな顔で歩いていた勇者は、国王がいる玉座の前で立ち止まる。



「おい、被告人。陛下の御前であるぞ。さっさと跪け」



 勇者に跪くよう指示を出す騎士を一瞥した勇者は思わず目を細める。



「お前こそ、誰に向かって命令しているんだ? 俺は、この国の……」

「よい、そのままで構わん」

「はっ!」



 国王の命令に敬礼で答えた騎士は、勇者に冷たい視線を向けると、何事もなかったかのように勇者の後ろに控えた。


(ったく、いけ好かない野郎だな。これが終わったら、俺の独断でやっちまうか)


 勇者が不機嫌そうに小さく舌打ちをすると、宰相が謁見の間にいる者達に向かって声を張り上げる。



「それでは、これより勇者ユウキ・スズハラの裁判を始める」



 宰相の言葉で謁見の間に者達の視線が、一斉に勇者ユウキに向けられた。





「皆様も知っているかと思うが、ここにいる勇者ユウキ・スズハラは、女神アドベル様が異世界から呼び寄せた者である」



 ユウキを召還した国は、建国時から創造の女神アドベルを信仰しており、人類に危機が訪れると、女神から信託を受けた大神官が勇者を召喚している。

 そして、女神から『魔王が復活した』と信託を受けた大神官は、女神と国王の意向に従い、大聖堂で勇者を召喚した。

 その時、異世界『日本』から召喚された勇者が、『鈴原 勇気』という16歳の男だった。



「女神アドベル様から遣わされた勇者ユウキは、人類の危機を救うために、仲間と共に魔王のしもべである魔族や魔王に挑んだ」

「異世界召喚された勇者だからな。それくらい当然だろ?」

「勇者ユウキ、静かにしているんだ」



 宰相から注意を受けたユウキは、今度は謁見の間に響くくらいの大きな舌打ちを打つ。

 そんなユウキの不遜な態度に、集まって貴族達は揃って眉を顰めると勇者に冷たい視線を向けた。


(チッ、どいつもこいつもいけ好かねぇな。こいつら、後で全員、纏めて焼き殺してやろう)


 容赦なく向けられる侮蔑を含んだ視線に、ユウキは辺りを睨みつけるように見回した。

 すると、宰相がわざとらしい咳払いした。



「コホン。そして、先日。長きに渡って人類を脅かしていた魔王が、ここにいる勇者によって倒された」

「フッ、そんなの当たり前じゃねぇか! だって俺、女神にチート能力を授かった勇者なんだからよ! ほら、さっさと魔王を倒してやった俺を早く褒めて称えろよ!」



 得意げな顔のユウキが、謁見の間にいる者達を煽る。

 しかし、勇者の彼を称賛する声は誰1人として発しなかった。



「チッ、ノリ悪ぃな。そもそも俺は、世界の危機を救った勇者なのに、どうして裁判なんてやってるんだよ? こういうのって普通、賞賛されるもんじゃねぇのか?」



 思っていたとは違う扱いに、あからさまに嫌そうな顔をしたユウキが愚痴を零すと、今まで沈黙を保っていた国王が静かに口を開いた。



「そうだな。本来ならば、魔王を倒した貴様を褒め称えるべきなのだろう」

「だろ? だったら、さっさと俺を称えて……」

「だが!」



 怒気を含んだ声を上げた国王は、僅かに肩を揺らしたユウキを憎しみの目を向ける。



「貴様が、勇者としてあるまじきことをしなければな!」

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