白銀の想い人

chisyaruma

第1話 白銀の想い人

 僕は月に一度この場所で、白波が静かに揺れ動き心地の良い旋律を奏でるこの場所で必ず彼女と会う。

 

 普段は二人でどんな時も一緒にいるのだけれども、この時だけはお互い離れ、大体の時間を決めてから会い、とりとめのない話を二人でただひたすらにゆっくりと流れる時間が許す限りする。


 僕たちが二人で会うこの待ち合わせ場所は思い出の場所である。そう、僕たち二人が初めて出会った場所。夜の海特有の静けさを持ちながらもかすかな波の音が耳に入ってくる。好きではないけれど、かといって嫌いでもない潮の香り。立ち上がると僕の体に触れてくる海風。そんな景色は僕の頭の中から一時も離れることはなく残り続ける。そして僕たち二人はその景色を求める。


 この日に見る彼女が僕にとっては一番美しい。美しいというよりもきれいなのか。それともかわいいのだろうか。月の光のような彼女の白い顔はどこか弱弱しく、それでいて彼女の姿はどこか大きく。


 僕が彼女と向かい合って話しているときにふと顔を見ることに集中してみる。彼女との会話は耳から耳へ通り抜ける。だけど神秘的な彼女の顔は目と頭の中に残り続ける。


 好きだ。好きだ。ずっと好きでいたい。昔も今も、そしてこれからもこの気持ちが消えることはないだろう。好きという言葉では今にもあふれそうな彼女への感情を抑えられない。彼女への想いをもっと適切に表せる言葉を作らなかった向井sの人たちに僕は少し怒りながら。


 「あの日のこと覚えてる、、、僕たち二人が出会った日のことを。僕たちはまだ子供だったよね。本当の愛も知らなければ、優しさも、美しさも、幸せも表面でさえ理解していなかったんだ」


僕たち二人の会話は必ず僕のこんな切り出しから始まる。彼女はうっすらと明るい微笑みを発しながら静かに聞いてくれる。何度この表現を彼女に聞かせたのだろうか。僕にはわからない。いつも一字一句同じというわけではなかった。毎日が変わっていくのと同じように悲しい時、嬉しい時、沈んだ時とで多少なりとも変わっていた。でも、僕の発する文の内容自治に違いはなかった。


 「あの日僕は限界に追い込まれていたんだ。今にも心が流れそうだった。でも君に出会えたから、僕と似たような君に、、、、」


 僕は彼女とあと何年一緒に入れるだろうか。できることなら雲の上でも、生まれ変わっても、たとえ生き物としての形が違っていたとしても一緒にいたい。何かしらの形でつながっていたい。


 彼女は僕のことをどう思っているのかわからない。だけど彼女は僕に希望を与え続けている。


 僕の体を白い淡く優しい光で照らしながら。


 彼女は僕の心を常に燃やし続けてくれている。


 白銀の弓を僕の心に与えてくれたから。



 


 


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