泥沼! プロパガンダ合戦!
第17話 野党
「恋愛税には断固反対しよう!」
「まぁまぁまぁ、落ち着いて。はい、お茶です」
文吾の前にお茶を出したのは、友遊党の副党首、
小野田は口調の通り人のよい兄さんだった。ふくよかな体形でサスペンダーがよく似合っている。お茶と一緒に持ってきたたい焼きに文吾よりも先に手をつけ、おいしそうに頬張っていた。
「いやぁ、まさか浜部生徒会長の弟さんが来てくれるなんて。これで百人力ですねぇ」
「うん。任せてくれ」
「それにしても意外でしたよ。弟さんが恋愛税に反対とは。お兄さんと仲がよろしくないんですか?」
「えぇ。あいつと仲が良かったことなんて一度もない。でも、恋愛税に反対するのとは関係ないけどね」
「ほう。ではなぜ?」
「え? だって普通に考えておかしいでしょ? 人の恋愛に税金をかけるなんて意味がわかんない。小野田さんもそう思わない?」
小野田はたい焼きをごくんと呑み込んで、首振り人形のように頷いた。
「まったくその通りです! いやぁ、学民党のやることは本当にいつも的外れですよね。恋愛は人の自由! そこに課税するなんてどうかしています」
「だよね!」
「えぇ! いやぁ、弟さんはまともな人でよかった。お兄さんの悪口を言うつもりはないんですけどね、もっと学民党さんは生徒の気持ちを理解した方がいいですよ。友遊党はね、こんなやり方は絶対にしません。なんといっても生徒に寄りそう党ですから」
「素晴らしい! 生徒のことをいちばんに考える小野田さんは政治家の鏡だよ」
「いえいえ、僕なんてまだまだですよ」
「小野田さんとなら何とかできる気がしてきた。一緒に恋愛税をぶっ潰そう。いや、すべての増税に反対していこう!」
「いえ、それはどうでしょう」
小野田は急にトーンダウンする。しかし焦る様子はない。お茶をずーっと音を立てて
「弟さんは
「ざいせいきりつ?」
「学園運営をする際のお金の使い方に関する考え方です。収入と支出の
「それって普通じゃないの?」
「そうですね。しかし、急にお金が必要になることはあるでしょう。そうしたら、お金が足りないですね。どうしましょう?」
「うーん、我慢するか、借金するかだね」
「おっしゃる通り。学園運営の場合、学債を発行して借金をします。生徒から集めた税金と学債を財源として、学園の部費やインフラ工事、イベントなどに分配するんです」
「なるほど。で、その話が何?」
「現在、学園の借金はいくらあると思います?」
「え? 知らないけど、聞くってことは多いんだよね。学園の借金だから、5000万とかそのくらい?」
「7兆Tコインです」
「な! 7兆Tコイン!?」
驚きすぎて、文吾はお茶をひっくり返してしまった。実際問題として、その額の大きさはぴんとこない。大きすぎて、ただ大きいとしか。
おやおやとやはり焦る様子なく、小野田はテーブルの上を布で拭いて、新しくお茶を淹れるべく立ち上がった。
「この学園都市に住む者は、生徒と教師、その他従業員を含めて約7万人。とすると、ざっくりとした計算で一人当たり1000万Tコインの借金があることになりますね」
「そ、そんなに!? だ、大丈夫なの?」
「いえ、大丈夫ではありません。このまま放置すると、もしかしたら明日にでも財政破綻するかもしれません」
「な、なんだって!?」
「ですから、ある程度の増税は必要なのです。借金しないために収入を増やさなくてはならないというのはおわかりになりますね」
「確かに、そう考えると増税は必要なのか」
「えぇ。ですが、慎重に行わなくてはならないんです。今の学民党は無駄遣いばかり。これではいくらお金があっても足りません。そんな中で行われる増税は、いわば悪い増税です」
「悪い増税、か」
「そうです。しかし、友遊党は違います。まずは徹底的に無駄を省きます。そして、その後に、それでも足りなかった分を増税で
「そういうことか。ごめん、僕はぜんぜん政治のことは詳しくなくて、直感的に反対しちゃったんだけど、増税にもいろいろあるんだね」
「間違ってはいませんよ。学民党の増税に友遊党は全力で反対します。その点に関して弟さんと協力できると考えています」
「わかった。じゃ、これからどうするの? 僕にできることがあれば協力するんだけど」
「そうですねぇ。恋愛税を廃案にするために、これから友遊党がすることは」
「することは?」
文吾が前のり気味で繰り返すと、小野田副党首はにこりと笑ってから、しれっと言った。
「期末試験です」
「……はい?」
★★★
友遊党・・・学民党から生徒会を奪取するために作られた学生党。当時、学民党は規律重視の厳格な者達で占められており、生きづらい学園となっていた。そこで規制緩和を目的として作られたのが友遊党。学びよりも遊びを。友に遊ぶ党。厳しい学民党よりも、優しい友遊党へと生徒会を奪取した。しかし、規制を緩和し遊び惚けたことで成績が低下し、多賀根学園のブランドそのものが低下した。結局、ある程度の規律は必要と学民党に政権が移り、その後、似たようなことを何度か繰り返している。
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