第8話 生徒総会までの道のり
「昨晩はお楽しみで」
学民党OB会の翌日。生徒会長室に訪れた数緒に対して、湊がとても冷めた目を向けてきたので、わざとらしく
「あいつの匂いがするか? 自分ではわからないんだが」
「いやらしい」
「君から話を振ってきたんじゃないか」
「セクハラです」
「それじゃ当たり屋だ」
「話を振らせた方がわるいと思います」
「アクロバティックな論法だな。それでどう俺に勝つつもりなのか興味が出てきた」
「……もういいです。仕事の話をしましょう」
ふんと鼻を鳴らして、湊はデスクの上のディスプレイを叩いた。そこには彼女のスマホから転送された資料が映し出されている。
「こちらが生徒総会までの流れとなります」
「二ヵ月ないのか。時間がないな」
「はい。生徒総会は7月15日。それまでのイベントとして学期末試験、各部活のインターハイ予選があります。生徒総会の資料作りに使える時間はそう多くありません」
「インターハイ予選の応援まわりはしんどいんだよな。つい早く負けろと思ってしまう」
「思わないでください。勝たないと功績になりません」
「冗談だよ。まぁ、資料作りは人海戦術でなんとかするとして肝心なのは」
「はい、票集めです」
多賀根学園の校則は、生徒会が提出し、生徒総会で審議される。そして代表者の多数決によって採決され、可決されれば校則として正式に採用される。
つまり、数緒が恋愛税を校則とするためには、代表者の票を集めなければならない。
「生徒総会での代表者はクラス代表です。7学年、各15クラスで105人。それから比例代表として10人で計115人です」
「多いんだよな。半分くらいにしたいところだ」
「法案可決のためには過半数が必要です。つまり票数としては58票集めなければなりません」
「現状は?」
「はい。クラス代表の内訳ですが、学民党が48人、友遊党が36人、無所属が31人となっています」
多賀根学園での代表者はクラス代表。クラス40人から一人選ばれる。小選挙区制と同じように感じるが、一つ大きな違いがある。それは所属するクラスを選べないということだ。
学民党と友遊党の党員が各クラスにばらけるわけではない。人気のある党員が偏ったり、一人も党員のいないクラスができたりする。その結果、無所属のクラス代表がやたらと多い。
「やはり無所属が多いのは選挙システムの致命的な欠陥だな」
「この不完全さのおかげでゲーム性が出ておもしろいという意見もありますが」
「ゲーム性なんていらないんだよ。学民党で過半数を得られていれば必勝。国会と同様に生徒総会も出来レースになるっていうのに」
「それを政治の腐敗と呼ぶのでは?」
「効率化と読み替えろ。どうせポジショントークするだけの議論で結果は変わらない。時間の無駄だ。決まるのはその前」
「そうですね。生徒総会までに無所属のクラス代表10人を引き入れ、58票にする。これが最重要案件です」
湊の見解は正しい。単純な算数としては彼女の言っていることは何も間違っていない。しかしながら。
「半分正解」
「半分ですか」
「残りの半分がわかるか?」
「大枠に間違いはないので、あとは党内ですか」
百人未満の組織であったとしても、組織である以上、権力闘争が生じる。学民党も例に漏れない。学民党の中にある派閥は2つ。白樺派と青柳派の二つの派閥が、生徒会役員の椅子を巡って争っていた。
数緒と湊は白樺派に属している。だから、白樺派の票は間違いなく得られる。ということは。
「まずは青柳派を説得し、党内票をまとめなくてはお話にならないということですね」
「その通り」
「一応、党議拘束があるのでは? 学民党の上層部が決めた校則案に党員は賛成しなくてはならないはずです」
「明文化されているわけではない。議事録を読み返してみるといい。稀にだがひっくり返されることがある」
「わかりませんね。そんなことをして何の得があるのでしょう? 反対ならばそもそも離党すればよいですし、学民党に在籍しながら反対して校則案が通らなければ困るのは自分達です」
「簡単だ。敵対派閥の足を引っ張れる」
「最低ですね」
「党全体の利益よりも、敵対派閥を
「にわかに信じられませんが、仮にそうだとしたら、会長は危ないですね。人望が、いえ、何でもありません」
「そこまで言ったら全部言え。まぁ、心配するな。その最悪の事態を避けるために事前交渉するんだ」
「では、さっそく青柳派の
「そうだなぁ」
数緒はメガネを外して、かるく拭きながら少し考える。そして思い出したように告げた。
「野球でもしようか」
「え?」
★★★
比例代表・・・1クラスから1人選ばれるクラス代表とは別に、全生徒の中から10人が選ばれる。選出方法は各政党の得票数を比率で計算したもの。この制度によって、政党の上層部の連中はクラス代表選に敗れても、クラス代表として勝ち上がることができる。ただし、比例代表で選ばれて離党した際には、ものすごい白い目で見られる。
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