第2話 弁護士

 エスはようやく弁護士との接見を許された。弁護士との接見に見張りの警察官はいない、とイーが主演の刑事ドラマで扱っていたことはあった。

 

 イーは、エスが元々所属していたグループのメンバーの1人。高身長かつ誰もが認めるスタイルとルックスの良さも相成り、多くのドラマのオファーが来た。けして、演技がうまかったわけではない。しかし、イーには出演するだけでドラマを際立たせられる華があり、もちろん視聴率にも貢献していた。

 

 イーは世間的に『カッコ付けの塩対応キャラ』で知られていた。それは世間に見せない、内の顔でも同じだった。仕事でも、仕事以外でもグループの他メンバーと積極的につるもうとしないイーのことを正直エスは気に食わなかった。


「それで、まずは、何があったか、時系列でお話しいただけませんか」と相原勉弁護士はエスに言った。

 相原弁護士は、後頭部が少しはげた40代くらいの男性だ。メガネの効果かわからないが、穏やかそうな人柄に見えた。赤いスウェットにジーパンのエスに比べ、相原はスーツ姿と両極端の格好をしていた。


 エスは辺りを見渡し、見張りの警察がいないことを確認した。

「相原さん、りょう、という男性を探して欲しいんです」エスは足を組むとぶっきらぼうに言った。

「りょう?」

「はい。りょう、です。」

「苗字は?」

「わかりません」

「どう言った関係の方ですか?」

「わかりません。ただ、りょう、という男性を探してください」

「わかりました」

 相原弁護士は、嫌がるどころか、ため息一つつかなかった。弁護士はそのやり取りだけで、『りょう』が見つからない限り、それ以上エスが話すつもりがないことを悟った。

「ところでエスさん、これは私の個人的興味なのですが、あなたの所属していたグループの名前は結局なんだったのですか?」

「秘密です」

「私にも教えられませんか」相原は目を緩めてから、にこりと笑って、頭を書いてみせた。デビュー当時、グループ名を非公表で売り出した。その気を衒ったやり方は話題を呼び、今の人気につながっている。

「すみません、脱退したグループのことを、持ち出してしまって」

 エスは相原のことを直感で好意的に思った。

「いえ、グループ名は、秘密、なんです」

「秘密?」

「俺らのトップ・シークレット」

 エスは囁くように言った。相原は額にじとりと汗を浮かべた。

「簡単に言うと、そもそも名前なんて決めてないんですよ。マネージャーの方針で。敢えてグループ名を隠して活動しよう、って話になったんです」とエス。

「そのマネージャーは被害に遭われた女性の方?」

 相原がそういうと、エスは眉間に皺を寄せた。

「ええ、そうです。では、とにかくお願いしますよ。りょうさんを探してください。弁護士さん、全て、あなたにかかってるんですから」エスはにこりと笑ってから、ため息をついた。

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