番外編 詐欺師だった僕・②

 ……だけど、それで僕が実際に幸せになったかと言えば、何も幸せじゃなかった。

正しいと信じて正義を振るうことってとても気持ちが良いことだけど、いくら正義を振るっても大元の問題は一つも解決していないのだから、当然だよね。

 幸せになりたかった。

魔力なしだからと蔑まない家族が、嘘偽りの無い愛情が、温かな信頼が欲しかった。

どれほど強い酒をあおっても執拗にまとわりつく孤独が怖かった。

不遇な今の僕の有様が怖かった。

詐欺なんてしちゃいけないよ、真っ当に働こうよっていさめてくれるお節介な誰かが欲しかった。

寂しいよね、一人ぼっちで辛かったねって、口だけで良いから慰めの言葉をかけてほしかった。

歓迎されなくても良い、せめて僕を拒まない居場所が欲しかった。

この世の片隅で良い、たった一つで良い、何かにほんの少し必要とされたかった。

冷たい孤独の海で溺れている僕に手を差し伸べて欲しかった。


 ……正義を気持ちよく振るう人って、ほとんどがそう言うどこかが空虚で悲しい人なんだろう。


 死ぬ前なのに誰かに会いたいとも思わなかった。

そもそも誰かとの楽しい思い出なんてありはしない。

あるのはただただ空しい僕のこれまで。

そんなもの、今更、思い出す価値も何もない。

(ああ、これが散々人を騙してきた僕への罰か)

そう観念したはずなのに、どうしてか泣けてきた。

……もし生まれ変わったら幸せになりたい。誰かに必要とされたい。一人ぼっちはもう嫌だ。

怖い、怖い。

誰か、助けて。


 「【タマネギのみじん切り】!」

野良犬が吠えながら逃げていった。辺りに漂うのは強烈なタマネギの臭い。何事かと思えば猫背で貧相な有様のガキが駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか!?」

――誰と訊ねる前に、意識が途切れた。

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